【B】姫と王子の秘密な関係



「お疲れ様です。
 向坂店の檜野です。

 って音羽、大変よ。
 今、こっちで胸を抑えて小父様が倒れた」



和羽が店の電話で寄越した一報は、
恐れていたことが現実となった瞬間だった。



「音羽?
 音羽、ちゃんと聞いてる?

 しっかりしなさい」



和羽の声が聞こえるのに、
次第に遠のいていく。


「音羽ちゃん、大丈夫?」


優しく声をかけながら、晃介さんは私を支えたまま電話に出ると
カウンター内の電話でお客様に丸見えとなるため、事務所の電話へと移動する旨を告げる。


「木村君、暫くレジを頼んだよ」

江島さんと交代してシフトに入っている男の子に声をかけると、
私は晃介さんに支えられるように事務所へと連れられて、椅子へと座らされた。


「お待たせしました。
 高崎です」

「お疲れ様です。
 遠野オーナーが胸を押さえて先ほど、フロアーで倒れました。

 そちらから帰ってこられて、入浴した後
 夕食を買いに下に降りてこられたんですが、
 そのまま倒れてしまいました。

 高崎さん、ちょっとお待ちください。
 今、救急車到着したんで対応してきます」



受話器のスピーカー越しに微かに聞こえる和羽の声。
次第に保留音が聞こえるのみになる。
 



晃介さんはすぐに自分の携帯を手にして、
何処かへと電話をかける。




「お疲れ様です。
 高崎です。

 遠野オーナーが先ほど倒れました。
 詳しいことは情報が入り次第、連絡します。

 向坂店・桜川1丁目店とも至急、応援スタッフの派遣を要請します」



話の内容はよくわからなかったけど、
今のこのままでは、私が店舗を離れることは出来ないから
交代人員を手配してくれていることはわかった。



「もしもし、檜野です。

 先ほど、オーナーが店長と共に救急車で出ました。
 受け入れ先は、多久馬総合病院です。

 こちらは、急きょ駆け付けてくださった
 御堂さんがシフトに入ってくれています」


スピーカー越しに聴こえた情報を確認して、
晃介さんが受話器を掴み取る。



「檜野さん、状況報告有難う。
 今本部に応援要請をかけました。

 檜野さんと御堂さんは、本部の交代人員が派遣されるまで
 引き続き店舗をお願いします」

「わかりました」




和羽は高崎さんと、業務連絡を終えると通話が切れる。
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