【B】姫と王子の秘密な関係
「さっ、音羽さん。
俺たちも動けるように準備をしないと」
高崎さんはそう言って、
私に落ち着かせるためか、
フロアーで購入してきたであろうペットボトルの暖かいお茶をトンと置いた。
ペットボトルのキャップすら開けられないほど動揺してる私だったけど、
キャップを開けて貰って、一口温かいお茶を口に含んだ途端、勢いよく血が巡りだすような感覚に陥った。
私がお茶を飲んでる間にも、
高崎さんの携帯には次から次へと電話が入り続ける。
その為に、本部の人間としての仕事をこなしながら
レジの補助をするために、事務所とカウンター内を忙しそうに行き来する。
「遅くなりました」
そう言って、本部から派遣されたはずの三人のスタッフは、
首からぶら下げている社員証となるネームプレートを
店内のスタッフに見せて、それぞれの仕事についていく。
「すいません。
多久馬総合病院まで、オーナーのお嬢さんと向かいます。
暫く店舗をお願いします」
高崎さんはそう言うと私を支えるようにして、
桜川一丁目店を後にした。
店の前には、何時の間に手配されていたのか
タクシーが私たちの搭乗を待っていた。
「遅くなりました。
多久馬総合病院まで」
高崎さんの声に、
ドアが自動でしまって走り出したタクシー。
救急用の玄関で、病院の警備員に事情を話すと
中からドアが開く。
受付で名簿に名前を書くと、
説明された場所へと向かった。
集中治療室の隣、家族ルームと言われる待合室。
そこでは、お父さんと一緒に救急車でついてきたお母さんが
椅子に座りながら、俯いていた。
「お母さん」
晃介さんのもとを離れて、お母さんの傍に私も腰掛ける。
「遠野店長、お嬢さんをお連れするのが遅くなりました」
晃介さんは、そう言いながら
母に言葉を交わしてくれる。
「お父さん……心筋梗塞ですって」
ただそれだけを告げて、
お母さんはまた黙り込んでしまう。
「遠野店長、高崎、遅くなってすまない。
遠野オーナーは?」
そう言って次に姿を見せたのは、小川さん。
「心筋梗塞で治療中です。
向坂店・桜川一丁目店共に本部より三名ずつ派遣要請しました」
「そうか、御苦労。
私は地区部長と今後の相談をしてくる。
高崎、情報が入り次第連絡してくれ」
そう言うと小川さんは、お母さんに挨拶をして
慌ただしく家族待合から出ていった。