【B】姫と王子の秘密な関係



その知らせを受けて、
俺は多久馬総合病院の集中治療室へと向かった。


病院内に入ると、元はつかず離れずの距離で俺を護衛し始める。




今はまだ、高崎晃介としての名で
音羽ちゃんに接することを許してほしい。



俺は早谷晃介以外の何者にもなり得ないけど、
春までの正式入社までは、
フレンドキッチン内においては、俺は高崎晃介。





どんなに暗闇の中に漂う星でも、
朝焼けを待ち続ける。






俺の長い長い夜が今、明けようとしていた。




それと同時に、遠野家族の元にも長い夜が明けていく。




「遠野さん。
 もう大丈夫ですよ。

 お父様の意識が回復されましたよ。

 先生の診察の後、どうぞ奥で面会してください。

 順調にいくと、1週間後を目途に
 集中治療室から出れるように訓練していくようになります」



そう言って、
集中治療室から姿を見せてくれた看護師さん。


一度中に消えていく看護師さん。


通常、面会は二人ずつと決められている規則を越えて
三人同時の面会を受け入れてくれた病院側の指示に従って
マスクをつけて、手を消毒したうえで、足でスイッチを押しながら
奥の部屋へと案内される。




「順調ですよ。
 今のところ、再発にも至ってません。

 お大事に」




そう言って俺たちに声をかけて、
集中治療室を後にしていく存在。



「院長先生がそう言ってくださったなら、
 もう峠は越えましたね。

 後は、日常生活に少しでも早く戻れるように
 ゆっくりとリハビリをしていきましょう」

「お父さん」


看護師さんの声を最後まで聞く前に、
遠野オーナーにしがみつくような体制になる、オーナー夫人。


「お父さん、良かったね。
 とりあえず次は、集中治療室を出ることが目標だね」


そう言った音羽さんに、遠野オーナーは静かに頷いた。



「遠野オーナー、高崎です。
 一連の事件の全てが先ほど解決しました。

 どうぞ店舗のことも含んで、全て俺に任せてください」



そう告げると、
遠野オーナーは再び目を閉じて眠りについた。







看護師さんたちに挨拶をして、
集中治療室を後にする。




次の面会時間まで、オーナー夫人と音羽さんは
病院に残ることを選ぶ。

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