【B】姫と王子の秘密な関係


6時から7時までの1時間、
団らんと言う名の親族内グループ会議を終える。


その会議の席で常に比べ続けられるのは、
同年代の二人の男、俺と由毅兄さん。


値踏みされるように、試されるように
質問攻めと視線の集中砲火を浴びる。


一瞬ですら気を抜くことが出来ない緊張した時間をやり過ごして、
一時間後、俺はお祖父さまの屋敷を後にした。



そしてそのまま川本の待つ、俺と兄さんだけの住む屋敷に帰宅すると
仕立てたばかりの着物を鞄に突っ込んで、
呼んでもらったハイヤーに乗って出掛ける。


茶道の交流会に行くような素振りで、
会場前で降りて、運転手を返すと
そのままくるりと体を反転させて、駅の方へと歩き出す。



俺、高崎晃介【たかさき こうすけ】の戸籍上の名前は、
早谷晃介【はやせ こうすけ】。


複雑な家庭環境と今の俺を取り巻く環境が
俺自身にストレスと言う負荷をかけつづける。

そんな苦痛の時間から解放されたくて、
俺は時折、誰にも知られたくない趣味を覚えた。


人によっては拒絶するやつも、
毛嫌いするやつもいるかも知れない。


だけど……コスプレと言う形で、
普段の俺を全て忘れて、発散できる。


そして今日は……俺にとって自分を一番リフレッシュさせることが出来る
イベントの為、こうして屋敷を抜け出した。


駅からイベントの
最寄り駅まで電車で移動すること40分。


イベント会場前には、
同人誌を購入しに集まってきた集団や、
俺みたいにコスプレを楽しみに来た集団にわかれて
列が出来ていた。



俺はいつもの様に、コスプレ専用の列に並んで
開場を待つ。



暫くすると、コスプレをする人たちが順番に
更衣室へと案内される。


受付で手続きを済ませると、
俺はコスプレ許可証を持って更衣室へと向かった。



更衣室の一番奥で、
身に着けていた私服を脱ぎ落すと、
このコスプレの為に京都の老舗呉服屋で仕立てて貰った
着物へと袖を通す。


サクサクっとさ慣れた手つきで着物を着つけると、
角帯を締めて、今度は地毛をネットで覆って、
その上から、ウィッグを被った。


後は……今日演じるキャラクターへとなりきるために、
自分自身にメイクと言う名の魔法を施していく。


30分ほどの支度時間の後、
俺は荷物をロッカーへと詰め込んで、
会場内へと移動を始めた。



「あっ、アキラ様。
 ご無沙汰しています」


土方歳三のコスをして、
そのまま会場を歩いているだけど
俺を知る人たちから、
次々とレイヤーネームで声がかけられる。


この場所に、
俺を早谷の跡取りだと知る人間はいない。


それだけでこんなにも、
気持ち的に楽になっていく俺が存在する。




「こんにちは。
 何?覚えてくれてたの?」

「あっ、はい。

 前回もネットでは、アキラ様がいらっしゃるって
 噂はあったのに、お姿拝見できなくて残念でした」

「そう。
 なら今日はそのお詫びに、一緒に少し付き合うよ」



そんな会話をサラリと交わしながら、
俺に近づいてきた彼女の腰に、
さっと手を回して抱き寄せた。
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