【B】姫と王子の秘密な関係
晃介さん自身の言葉と、小川の言葉を思い出した。
そうだった……。
いつの間にかスルーしてたけど、晃介さんは大学生だって
最初に教えてくれてた。
お父さんたちがそれを知ってるかどうかは別として、
私には話してくれてた。
「大学の卒業式なら行くななんて言えません。
晴れ舞台、行ってらっしゃい。
その日は、何が何でも和羽にも協力して貰って
私たち二人と、お父さんの信頼してるスタッフさんで
両方のお店、守り通すから」
そうやって答えると、晃介さんは「有難う」っと呟いた。
晃介さんが代理オーナーに就任して、
すぐに行われたのは、スタッフの意識チェック。
何項目にもわたる質問に答えて、
仕事に対する意識、誇りに対する意識、犯罪に対する意識など
心理学的に分析してチェックしていくと同時に、
何度も自店舗研修を開いては、スタッフのスキルアップに力を入れ始めた。
それと同時に、前に一度経験したことのあるフィールドワークを
桜川一丁目店、向坂店ともに実行。
売り上げの盗難事件の犯人逮捕の報道が、
世間を騒がし、父さんへの同情にも似た人の心が世論に溢れているのか
少しずつ、お客さんがお店の方に戻ってきてくれるようになった。
何度もお店を利用してくれる向坂店の常連さんは、
お店に来てた、「お見舞いだよ」っとか「お父さんは大丈夫かい」っと
心配して声をかけてくれる。
ずっと生まれ育って根付いてきてたその場所だから、
向坂のお客さんたちが、お父さんを気にかけてくれるのはこんな言い方はダメかもしれないけど、
当然だと思った。
だってご近所さんなんだもん。
だけど桜川一丁目店に入るようになって、
新店長が見つかるまでの間、店長としてお店を手伝ってくれたのは
前梁田オーナーの奥さん。
この桜川一丁目店を切り盛りしていたベテランさん。
オーナーとしては離れてしまったし、遺言もあって続けることはしなかったし、
一度はコンビニと言う仕事から完全に離れようと思ったけど、
新しくオーナーになったお父さんが倒れたことを知って、
亡くなられた旦那さんと重なった挙句、近所の人からも
桜川一丁目店の事件の話題を聞いて、居てもたってもいられなくなり
お店のことを思う気持ちは、変わらないわよっと、
盗難事件公表の直後から、店舗に顔を出してくれていた。
「音羽さん、お疲れ様です。
後はお願いしますね。
私は、裏の山下のお婆ちゃんのところに、お米を届けて
帰りますね。
どうぞ、遠野オーナーにお大事にとお伝えください。
過労・心労は本当に体に毒よ。
うちの人は、過労と心労に負けてしまったけど
良かったわね。
元気に回復されてるみたいで」
梁田夫人の言葉は、
凄く重く心に響いた。
「何時も有難うございます。
病床の父になり変わり、お礼申し上げます。
あの事件の後、梁田夫人が手伝ってくださるようになって
この近所の方たちの雰囲気が凄く変わりました。
梁田オーナーと梁田夫人が、この場所でどれだけこのお店を大切にしながら
地域と密着してコミュニケーションしてきたかを勉強させて頂きました。
将来のこととか考えられないまま、
ただ流されるようにストアサブマネージャの資格取ったんです。
だけど……梁田夫人に出逢って、
私もこの資格をとって良かったって心から思いました。
応援してくださる期間、いろいろと勉強させてください」
ただ流されるだけだった私の仕事。
そんな仕事に、少し誇りを持つことが出来た時
私は心から、いろんなことをもって吸収したいと思った。