【B】姫と王子の秘密な関係
だけどこれで、
彼女に連絡先を伝えやすくなったか……。
「俺、今忙しくていつも
イベントの当日じゃないと、参加の有無はわからないんだ。
だから良かったら、連絡先の交換しない?
参加予定のイベントを伝えることも出来るだろうし、
当日の参加状況も連絡できる」
そうやって提案した俺に、
彼女は頷くと、嬉しそうに自分の連絡先も教えくれた。
その後は、イベントが閉幕するまで過ごして着替えを済ませると
会場近くの喫茶店で、軽くお茶をして俺たちは駅で別れた。
翌週の月曜日。
朝一で、養父に呼び出されると
そこには、険しい顔をした養母。
「今朝、三条家から断りの連絡がありました。
今回のビジネス提携は、
早谷にとって大きな意味を持つものだったって言うのは
晃介さんには、おわかりにならなかったのかしら?」
突き刺すような言葉と共に言い捨てる養母。
「晃介、来年の四月に向けて少しやって貰いたいことがある。
早谷の人間としてではなく、高崎の人間として。
三条家との破たんで、会長の嘆きは大きい。
株式の方にも、少し影響が出てしまうだろう。
そんな状況下て、晃介だけ何もしないと言うことは出来ない。
半年ほど、早谷の性を離れて私の指示通り、動いてほしい」
養父が告げた言葉に対しても、
拒否権など存在しない。
俺はその日から二週間、
うちのコンビニ部門の育成会。
店舗責任者研修なる合宿に、
新人オーナーになる、
高崎晃介として紛れることになった。
そう……俺が遣わされた場所は、
亡き父である幸晃が必死に守り続けた曰くつきの部署。
今は赤字は大分解消されているものの、
消費税の増税やら、原材料の高騰、価格破壊などから
今期は赤字報告になる予定の、今も一族のお荷物である場所。
それでもどんな形でも、
早谷の重圧から解き放たれるのは嬉しかった。
そして……養父によって与えられたこの仕事が、
叶うはずのない恋に逸る俺自身の心に
歯止めを提供してくれる。
止める心は、
少しずつ俺自身を硬直させていきながら
その時間を閉じ込めてくれる。