【B】姫と王子の秘密な関係

5.本部の新人研修生 - 音羽 -




最後アキラさんに出逢った日、
少し近づけたと思った。


だけど……その日から、彼の出没の噂を聞くたびに、
イベント会場に足を運ぶものの彼に出逢うことはなかった。


近づけたと思っても……
アキラさんの存在はやっぱり遠くて。


連絡先の交換はして貰って、
私の電話帳には登録されてる。


だけど電話中から、電話番号を呼び出しても
画面を見つめるばかりで、
発信ボタンを押す勇気までは持てなかった。


アキラさんに逢えないまま、
ズルズルと私の時間は過ぎていった。



明日からもう10月。


アキラさんと逢うことがないまま、
私は日々の日常に戻っていた。




「音羽、何ボーっとしてるの?

 アキラさんのこと考えてた?」



和羽は何時の間に購入してきたのか、
私にグリーンスムージーを手渡す。


和羽から受け取った紙コップを口元に運びながら、
私は大学校舎からゆっくりと離れていく。


もうすぐバイトの時間。
気持ち切り替えなきゃ。



無言の沈黙がに流れる中、
紙コップの中身を飲み干すと、
和羽が私の手から紙コップを回収して
近くのゴミ箱へと捨てた。



「さっ、音羽。

 また気分転換必要な時は、付き合うからさ。

 私もダンスの発表会終わって、
 時間取れるようになってきたし」


「有難う」



親友のそんな優しい気遣いが温かい。



和羽がいなかったら、
私……なかなか前に進めないんだろうな。


そんなことを思いながら、
少し先を歩き出した親友の腕を両手で絡めとった。



「何?音羽?」



照れくさそうに会話する和羽はやっぱり何処か、
宝塚の男役の人みたいな
そんなさり気ないかっこよさがあって。



「まっ、いいけど……。

 ほらっ、電車入ってくるよ」



電光掲示板を見上げて、
時刻を確認した和羽は私をリードするように
ホームへと続く階段を駆け下りて、
私たちはバイト先へと向かった。




「「おはようございます」」




いつもの様に、フロアスタッフに挨拶をして
入る更衣室。


私は和羽を更衣室に残して、
自室で着替えを済ませて、すぐにお店へと降りた。

和羽と二人、出勤処理をしてミーティングボタンを押して
いろんな情報を共有する。
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