【B】姫と王子の秘密な関係
「話はそれだけだ」
小川の言葉に、私は和羽とお辞儀をして
事務所を後にした。
お父さん、
一人残して御免。
次はお母さんも人身御供に送り込むから。
思わず壁に握り拳を打ち付けたくなる衝動を抑えて
レジカウンターへと戻った。
そこで店長であるお母さんと交代。
レジの傍、何かに八つ当たりしなきゃ怒りが収まらない私は
お客さんが捨てたレシートBOXのレシートを一気に使って、
ムギュっと捻りつぶして、ゴミ箱へと放置した。
そんな光景を見てた和羽が、
どうどうっと宥めるように私の肩を叩く。
そんな私たちの光景を見て、
クスクスと笑ってる声。
げっ、見られたっ。
「お疲れ様。
あまりストレスため過ぎると体に悪いよ。
えっと、遠野さん」
高崎さんは、
私の名札をチラリと覗いて名前を呼ぶ。
だったらストレス溜まらないでいいように
本部も配慮しろっての。
「遠野さんはここのオーナーさんのお子さん?」
ふいに振られた話題に、
さっきまでの怒りがスーッと何事なかったように鎮火していく。
「あっ、はい」
「名前は?」
「遠野音羽です」
「音羽さんね。
で、隣が檜野さん」
確認するように二人の顔を見て
告げられた名前。
「改めまして、高崎晃介です。
今日から、春頃までかな、お邪魔させて頂くと思います。
大学行きながらなんで、顔出せる時間は限りがあると思うんだけど」
まだ大学生らしい高崎さんは、
自らのプライベート情報を語りながら、
私たちと何事もなく会話を続ける。
会話中に、店内にお客様が入ってくると
私たちが話しかける第一声に続いて、
その柔らかな声で、挨拶を続けてくれる。
「音羽さんか、檜野さん。
どちらでも構わないんだけど、
店舗を案内していただけますか?」
高崎さんはそう言うと、
手に持ったノートに、何かを記入しながら微笑みかける。
「音羽、良かったら頼める?
私、レジ前のゴンドラ次のイベント商品に変えないとだから」
そう言うと、和羽は忙しそうに
作業用の籠と、掃除アイテムを持って
黙々と作業を始める。
作業の合間に、お客様の応対も忘れずに。
私はと言えば、和羽に全てを押し付けるようにして
高崎さんの傍についてまわっていた。