【B】姫と王子の秘密な関係
6.店舗アドバイスと上司 -晃介-
研修と言う名の二週間の冷却期間。
先方の三条家から、お見合いを断られた存在。
早谷の名を持ちながら、そんな風にある意味断られたという傷が
ステータスについてしまった俺に対して執られた、
世間から少しの間、隔離するための冷却。
早谷の名と言う重荷をはずして、
生まれた時の、高崎と言う姓を名乗って
訪れた二週間の店舗責任者研修。
朝から晩まで、店舗責任者になるための知識を
分厚いマニュアルとテキストに基づいて叩き込まれていく時間。
休憩時間は殆どなく、
テキストを学習して、テスト。
課題をクリアすれば、次のステップ。
食事時間は、決められた時間に提供され
それ以外は、研修生同士のスキルアップの時間に費やされ続ける
前半の一週間。
俺的には、亡くなった父親に小さい時から教えられてきた
基礎中の基礎だから、パラパラと見直す程度の出来事だったけど
一緒に研修している20代から50代の幅広い
未来のオーナーさんたちに交じって机を並べる。
ペーパー研修の最終日、1日がかりで全ての試験を再度受けて
合格者のみが次の研修ステップ、店舗研修へと歩みを進める。
今週の店舗研修、1週間を本部直営店舗で乗り越えると
新人オーナーたちはそれぞれの、自分の店へと帰っていく。
そんな二週間の研修を終えた最終日、
俺の携帯に養父から連絡が入る。
研修先の店舗から、待ち合わせてリムジンに乗り込んで
連れていかれたのは、趣きのある懐石料理屋。
「晃介、座敷にはすでに会長も来られている。
晃介の春までの研修を、
指定の場所で引き続きおこなってほしい」
車の中で突然告げられた養父の言葉。
指定の場所で、研修を引き続き行う。
告げられた言葉に、少し安堵する俺自身。
今暫くは早谷に戻らなくてもいいのだと思う安心感。
車がゆっくりと停車した店の前、
美しく手入れされた、日本庭園を通り抜けた先に
姿を見せた日本家屋。
和服姿の女性が丁寧に会釈をしながら、
奥の座敷へと俺と養父を案内していく。
座敷の中から、三味の音色と共に舞を披露する
芸妓さんの姿。
俺たちが座敷に向かうと、
ちょうど舞を終えた芸妓が会長にゆっくりとお辞儀をする。