【B】姫と王子の秘密な関係
そんな光景が俺が最初に求めた理想とのギャップを
突きつける。
お父さんが社長をしていた時代も、
こんな適当なやり取りしか行われたかったのだろうか?
そんな疑問が俺の中に湧き上がる。
そうやって一日に小川さんは担当している店舗を
次から次へと立ち寄っていく。
そうこうしている間に、夕方。
一日はあっと言う間に過ぎていく。
そして辿り着いた店舗に居た二人のスタッフを見て、
何処かで見た顔かもしれないと感じた。
店内に入った途端、
小川さんはスタッフにも声をかけることもなく
事務所へと向かっていく。
「お疲れ様です」
そんな小川さんに
声をかけた女性スタッフの一人。
その後、続けてもう一人のスタッフも
声をかけるものの、小川さんは聞こえていないのか無視をしたのか
挨拶を返すことなく、事務所の中へと消えていった。
「こんにちは。
お疲れ様です」
二人の女性スタッフにお辞儀をして、
俺も事務所へと入室する。
小川さんはすでに、ストコンの前で
気難しい顔をしている。
そんなストコンの画面を小川さんのやや後ろから、
眺める。
ストコンの画面に映るのは、
新商品の販売状況。
何処のコンビニも、
今はデザート戦争・コーヒー戦争。
そんな戦争の勝敗を告げるストコンの店舗ごとのデーター。
それを気難しい顔で睨み付けながら、
本部から与えられた、SV自身の営業理ノルマを考える。
「失礼します。
マネージャー、
オーナーと店長は呼びますか?」
ノック音と共に声をかけて
入室してきた女性スタッフの一人。
「あぁ」
小川さんはスタッフも顔も見ずに答え、
そのまま画面を見つめ続ける。
「連絡を取ります」
そう言ってお辞儀をした女性スタッフは、
やはり何処かで
会ったことがあるかも知れないと感じた。
暫くしてこの店のオーナーと店長が二人
事務所に駆け込んでくる。
加盟店の責任者が出そろった途端に、
小川さんが鞄の中から取り出したのは、
このエリア全店舗の成績表。
本部が推奨した商品、一押しの商品を
どれだけ販売できたか?
企画の順位表が机に置かれる。
その成績表だけがすべての世界。
やがて店長が外に出て、
フロアーに居た女の子二人が事務所へと呼ばれる。
「見ての通り先日のドリンクの成績だ。
この結果に対して思うことを、
レポートして次の訪問までに書き上げること。
次回の企画対象商品の一覧を渡す。
既存在庫をチェックして、帰るまでに提出してくれ」
顔も見ないまま、スタッフに小川は告げると
女の子たち二人は、機嫌悪そうに顔を歪める。
そんな二人が気になって、
俺が視線を向けていると、
急に小川さんが俺の名を呼んだ。
「あぁ、高崎。
ここの店舗スタッフだ」
「お疲れ様です。
小川SVの傍で補佐しつつ研修させて頂くことになりました、
高崎晃介です」
「高崎君は来年春から、入社が決まっている。
今回は上の意向で、入社前に俺が預かることとなった。
話はそれだけだ」」
一方的に話を切り上げるように、仕向けると
オーナーを残して店舗スタッフはフロアーへと戻っていった。