【B】姫と王子の秘密な関係
私のお父さんも、
私が生まれた時からコンビニの経営者だったわけじゃない。
最初は……国内外出張も多かった、サラリーマン。
アクセサリー関係の会社に勤めてたお父さんは、
何時も仕入れに、海外を飛び回ってた。
そしてアクセサリーの販売先の確立の為に、
国内も営業に飛び回ってた。
その会社が、香港に新しい工場をOPENさせることになった時
その香港支店の責任者に白羽の矢が立ったのは、お父さん。
だけどそれは、家族全員が香港に生活拠点を移すか
お父さんが単身赴任で、香港で暮らすかの選択になるわけで……
その話が出た時は、私は小学三年生。
お父さんはその会社を退職して、
今の生活を選んだ。
家族で一緒に住み慣れたこの町で生活する未来を。
だけど……私がもっと大きかったら……
生まれてなかったら、お父さんはお母さんと二人で香港に移住して生活する
未来もあったのかな?なんて思っちゃう。
お母さんの指にはめられた結婚指輪は、お父さんがデザインした指輪だって
何度も何度もお母さんは教えてくれた。
私の首元にも、お父さんがデザインしてくれた幸せの象徴。
四葉のクローバーのペンダントがキラキラと光ってる。
それもお父さんのデザインしてくれた大切な宝物。
多分……そのまま、香港に引っ越してても大活躍していたかも知れない
お父さんの未来は、
私の環境を簡単に変えたくないって言う思いから閉ざされたのだとしたら
それはやっぱり……私自身も自分の存在を許すことなんて出来なくて。
だけど……もし、そのお父さんに新しい夢が出来てるのだとしたら?
だったら……私はその夢を叶えるために手伝えばいいの?
それとも……?
「音羽、どうかした?
なんか考え事?」
交代前の中間点検を終えて、
レジの誤差がないのを確認して、私たちはいつもの様に仕事を始めるんだけど
今日は……考えることが多すぎて、うまく状況反射が出来ていない。
「ごめん。
なんかさっきの事務所のテーブルの書類が気になっちゃって。
うちのお父さん、二号店持ちたいのかなー?って」
「二号店?」
「うん。
複数店経営者って言う言葉を、書類の中で見つけちゃったから
今のお父さんの夢なのかな?って。
ほらっ、うちのお父さん香港行きの話蹴って、日本に残ってくれたでしょ」
「あぁ、また音羽の迷宮はそこにはまっちゃったんだ。
確かに小父さんは、前の会社を辞めて日本に残って今の仕事を始めた。
だけど私は、小父さんが今の仕事を始めてくれたから、
こうやってバイトさせて貰うことも出来るし今も音羽と離れずに一緒に楽しめてる。
小父さんの決断は凄く大変だったと思うけど、
だけど……その決断は小父さんのものだよ」
「でも……私やお母さんが、ちゃんと単身赴任になっても移住する形になっても送り出してあげれれば、
ついていくことが出来たら……。
和羽のとこの小父様も、条件は一緒だった。
小父様は、今も一人でアメリカと日本を行き来して生活してる」
「確かに、うちのお父さんは単身赴任の道を選んでるけど
だからって、それじゃないと行けなかったわけじゃないと思うんだ。
選択するって、選び取るって、決断するって本当に難しいし大変だよね。
決めたこと以外は、全て断つ行動なんだもんね」
そうやって和羽は吐き出すように呟くと、
そのまま店内の掃除の準備に移動していく。
私はと言えば、補充できるタバコや、お箸などの消耗品を足しながら
イートインスペースの掃除を済ませながらも、
二号店のことと、昔のお父さんの決断のことばかり考えてた。