【B】姫と王子の秘密な関係



「音羽さん、どうかした?
 少し集中できてないみたいだけど」


気が付いたらいつの間にか、事務所から出てきていた
高崎さんが私を捉える。


「あっ、大変申し訳ありません」

「謝るのは僕じゃない。
 このお店に買い物に来てくれるお客様にだと思うよ。

 このお店で働く人たちにとっては、
 どのお客様もただのお客様かも知れない。

 だけど……必ずしも、お客様にとってはそうとは限らない。

 音羽さんは、そのお客様が旅先で出会った印象に残る店員さんになるかも知れない。
 いい意味でも、悪い意味でも。

 だからこそ、仕事中は誰の視線が集まっても揺るぎないように恥じないように
 しっかりと丁寧に行動していかないとね」



高崎さんの言葉は、優しい口調だけど
その中身はとても厳しくて……、
『プロの仕事』をしろと突きつけられてるような感じがした。 



気持ち切り替えなきゃ。
今は仕事中だもん。



「ご指導有難うございます」

「少しお茶を飲んで気持ちを切り替えておいで。
 ハーブティーでいいかな?」



高崎さんはそう言うと、「失礼します」と告げて
カウンターの中に入ってくると
カップに砕いた氷を入れて、冷たいハーブティーを入れてくれる。


お店で販売してる、ハーブティーたけど用意された、三人分のお茶。


その三人分のお茶代は、
その場で高崎さんによってチャリーンとカードで引き落とされる。


ハーブティーを入れながらも、
お客様が来店されると、すぐに反射して自ら率先してお客様をお出迎え。

小川だと絶対にしてくれない、
レジも和羽のメインレジに、社員バーコードを通して接客対応する。



高崎さんの丁寧な流れるような作業に
私は見とれてた。


一切の無駄がない動き。

だけど……
とても丁寧に対応されている。 


ガゼット【レジ袋】に商品をいれていく順序。

見送るまでの一連の流れは、
一度目を引いてしまうと、離せなくなってしまう。



同じようにやってるはずなのに、
私と高崎さんの接客って何が違うんだろう。



レジ対応を終えると、高崎さんは私の方を見て


「少し氷が解けてしまったかな。
 ハーブティー、飲んでおいで。

 檜野さんも少し休憩するといいよ」


っと床掃除をしていた和羽にも声をかける。


作業の手を止めて、和羽も慌ててカウンターの奥へと戻ってくる。


「頂きます」

「うん。
 飲み終わったら出ておいで」



そう言うと高崎さんは自分の用のハーブティーを一気に飲み干して、
カップをゴミ箱へと捨てると、フロアの方へと出ていった。

その後も、お客様を出迎えながら、ゴンドラの確認をする。



私と和羽もお茶を頂いた後は、
本格的にいつもの持ち場へ。



「音羽さん、ここのお菓子コーナー。
 いい感じにまとまってる。担当者は誰?」

「あっ、有難うございます。
 その場所は先日、私が棚替えしました」

「目を引く売り場作りを
 プロデュースするのも大切な仕事だからね。

 最後に一点。
 どうでもいいかも知れないと思うかもしれないけど、
 袋のスナック菓子。
 
 もう少しフェイシングの技法に基づいて、並べ方を考えるといいよ」

「フェイシングの技法?」


問いかけた時には、高崎さんは手にしていたノーパソを開いて
呼び出していくのは、このゴンドラの売り上げ管理データー。

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