【B】姫と王子の秘密な関係



「まぁ、凄い。
 高崎君、何時の間にこんなにデーター調べたの?

 私も去年、研修で小川さんとこの店舗行ったのよね。
 だからよく知ってる。

 客層と取り扱う商品のバランスがこの店舗は悪いのよね。
 でも……、そればかり指摘してたら私たちの身も持たないわよ。

 本部が開発した商品を店舗に販売して幾らの私たちの世界だもの。

 私も最初は、嫌だったのよ。
 ストレスが溜まって、私が目指してたのは架け橋であって押しつけじゃないって。

 でも……その理想の方が無理なんだって、思い知らされたわよ。
 だから高崎君も、この仕事を長く続けたいなら何処かで諦めなさい」




諦めなさい……そうやって告げられた、
逢野さんの言葉がやけに心に突き刺さった。




就業開始と共に、俺たちの一日は始まる。


朝のミーティングを得て、それぞれの店舗への訪問。
そして午後には社に戻って、今後の経営会議。


企画の発案、企画に関わる対象商品に対する営業ノルマ。


本社から支店営業部に指示された企画。
その企画をベースに、決められていく様々な机上での会議。


お茶を飲みながら、流れるように話し合われた二時間後、
会議は自分たちの想いだけを重視した形で終了した。


この場でSVに課せられた営業ノルマは、
全て店舗経営者の犠牲の上で達成されていく罪悪感。



ストレスと罪悪感を強く抱えたまま、
俺は座席からすぐに立ち上がることも出来ず、
じっとしていた。




「おいっ、高崎。

 ぼーっとするな。
 会議は終わったぞ。

 店舗の奴らには甘い顔なんて見せなくていい。

 所詮、店舗の奴らと俺たちは手を繋いでお友達にはなれない。
 
 その辺の甘さを捨てないと、高崎も体を壊すぞ」


いつもは冷たいだけの小川さんから、
僅かな優しさを感じられた瞬間だった。


憧れ続けた父の背中。


だけど……何度も何度も湧き上がる、
罪悪感と過度なストレスに、俺は太刀打ちすることも出来ずに
その時間に流されていた。



自分を見失いたくない。
今は見失っちゃだめだ。




その日の仕事を終えて帰宅してネットを検索する。




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