【B】姫と王子の秘密な関係


「音羽ちゃん、今日はこれだけだよ」

「はぁーい。
 じゃ、レジで店着しますねー。

 何分ですか?」

「26分で」

「あっ、今なりました」



そんな会話を交わしながら、
ドライバーさんから手渡されたカードのバーコードを
スキャンする。



「んじゃ、お疲れ様です」

「はいっ、お疲れ様です」


毎日、配送でお世話になりまくってるスタッフさんを
見送ると、再び商品り検品と陳列に集中する。


片付け終わった頃には5時前。




うわっ、暗かった空が明るくなってんじゃん。



今日も暑くなりそうだなー。
日焼け、ちゃんと塗らないとなー。





そんなことを考えながら、
大量のケースをお店の裏側に片付けて
冷蔵室の続きを始める。


6時前、午前中のスタッフが顔を出す。



「おはようございます」

「おはようございます」



近所のベテラン主婦。
御堂さんは、私のお母さん・遠野恵美【とおの えみ】の友達。



「恵美ちゃんから電話貰ってたから、
 少し早目に来たけど もう音羽ちゃん片付けちゃったみたいだね」

「あっ、今終わったばっかりです。
 お父さん、今日は8時には降りてくると思います」

「覚さん、8時ね。
 なら覚さんの発注もしておくほうがよさそうね」

「お願いします」


発注端末を肩からぶらさげながら、
朝の仕込みと、お客様の応対を次々とこなしながら
時間は過ぎていく。

8時前、親友の檜野和羽【ひの かずは】が
キャリーバッグを転がしながらお店に顔を出す。

檜野和羽は、私の小学生三年生からの親友。


「おはよう、和羽。
 ごめん、後3分で時間になるから退勤するよ」 

「うん。
 私は大丈夫だから」

「あらっ、檜野さん今から音羽ちゃんと旅行?
 大きな荷物持って」


御堂さんの視線は、和羽のキャリーバッグに集中。


「あっ、ちょっといろいろと荷物が入ってて。
 旅行じゃないんですけどねー」


なんて和羽は、御堂さんに切り替えしながらも
勝手知ったる店舗内。


コンビニ店員の悲しい習性を、
シフト外にもやってるよ。


【前出し】って言って、お客様が商品を取って取りにくくなった後ろの商品を
取りやすいように前に移動させていく作業。



「音羽、すまんかったなー。
 あがっていいぞー」 


多少は仮眠して、気力を持ち直した父親が
制服に袖を通して、フロアに顔を覗かせる。


「んじゃ、あがります。

 お疲れ様でしたー」

「はい、お疲れ様」


御堂さんの声に見送られて、
発注端末のデーターをメインコンピューターに転送。

発注の書き込みが終了したのを確認して、
退勤処理。


そのまま更衣室に移動して、
私服に袖を通すと、ペットボトルの飲み物を二本手にして
レジへ。


会計をチャリーンっと携帯で済ますと
そのまま、和羽に一本手渡して、
二人でキャリーを転がしながら最寄り駅へと向かった。



「和羽、いきなり深夜手伝うことになって
 そっち任せっきりでごめん」


キャリーの中身を想像しながら
私は親友の和羽に謝る。


飲み物はそれの労いも兼ねての貢物。
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