【B】姫と王子の秘密な関係
「私には私のビジョンがあります。
故に、即答は出来かねますので改めて
返答させて頂きます」
イラっとした勢いのまま、口早に告げて
私は事務所を飛び出すように後にして勤務に入った。
仕事中も集中力が追いつかない。
経営者の子供だったら、
絶対に家業をつかないといけないの?
継ぐことが強要されるの?
自由はないの?
そんな世界だったら、今更言っても仕方ないけど
脱サラしないで、お父さんにはずっと会社勤めしててほしかった。
そんな風にすら思ってしまう自分自身に、
イライラが抑えきれない。
その日の仕事は、カウンターフードの聞き間違えやら、
何時もなら顔を見たらその人の煙草の銘柄を出せるのに
記憶がリンクしてくれなくて散々な状態で、お客様にも怒鳴られながら
その日の勤務を何とか終えた。
制服を脱いで和羽を見送って二階の自室に戻る。
制服をハンガーにかけて、ふと机に視線を向けると
携帯が着信を告げるように点滅していた。
*
着信が一件ありました。
*
モニターに表示されているメッセージを確認して、
ボタンを操作して、着信相手を調べる。
[× From アキラ]
着信相手の名前に、驚きが隠せない。
そのまま発信ボタンを押したくなる気持ちを押し殺して
画面を戻すと、今度は【メール受信】のマークを確認して
再びボタン操作する。
*
乙羽ちゃん
こんばんは、アキラです。
日曜日、俺も仕事の調整がついたので
イベント参加します。
そのお知らせに、初めて電話してみましたが
電話には出なかったから、こっちから連絡します。
警戒されちゃったかな?
乙羽ちゃんは、Tranceコスみたいだけど
あと一回、約束コスで合わせ出来ませんか?
次回は乙羽ちゃんにあわせて、
俺も次回はTranceコス制作しておきます。
もし可能なら、夜にでも電話お待ちしています。
アキラ
*
コスプレSNS経由の
メッセージ受信のお知らせだった。
私が電話に出れなかったから、アキラさん
SNSで探してメッセージをくれたんだって思ったら
凄く心がドキドキした。
アキラさんも私に合わせて、
Tranceコスしてくれるなんて……。
震える指先で、そのままSNSの自分のサイトにログインして
そのまま返信ボタンで、アキラさんに返信をする。
今までは何度検索しても、
このSNSでアキラさんを見つけることは出来なかった。
だから今、こうやってアキラさんがこのSNS内に生息してるのは、
私にメッセージを送るために登録してくれたのだと思えた。