【B】姫と王子の秘密な関係
「いいよっ。
音羽も遊んでたわけじゃないのは私も知ってるから。
ちゃんと縫い物は終わって完成したよ。
それより深夜勤務の後のイベント。
今日も暑くなりそうだから倒れないでよー」
「そのつもり」
二人、ペットボトルのキャップを開けて
水分補給をしつつ、駅の中へ。
入ってきた電車に乗り込んで20分。
乗り換えすること5分。
9時前には、イベント会場に到着。
会場前には、
すでにズラーっと人・人・人。
何処からこんなに集まったのよーつて思いそうな人数が集まってる。
そんなイベント会場の一角、同じようなキャリーを転がしてる集団が居並ぶ列に
私たちも並んだ。
*
おはようございます。
伊代【いよ】さま、いらしてますか?
乙羽【おとは】
*
メールを送信。
伊代さまって言うのは、
2年前から交流がある、私と和羽のコスプレ仲間。
キャリーの中身の正体は、コスプレの変身グッズ。
和羽に夜なべで作らせてしまった今日の変身アイテム。
コスプレ衣装。
乙羽って言うのが
私のコスプレをしている時のレイヤー名。
*
ご無沙汰しています。
今日の合わせ、
楽しみにしていますねー。
伊代
*
並びながら待ってる間に、
メール相手から、返信が届く。
そんなイベント仲間たちと今日の打ち合わせ宜しく、
連絡を取りながら会場を待つ時間。
待ってるだけでも、陽が高くなって
扇子でパタパタと風を送りあう。
「只今より、コスプレ登録専用ゲート開場します。
受付の登録用紙に記入して、
更衣室使用料を支払って、手続してください。
なお、イベント公認登録済みレイヤーの証になりますので
缶バッチつけてお楽しみください」
メガホンを片手に、呼びかけながら
列の後方まで移動していくイベントスタッフ。
ゆっくりと動き出した列に合わせて、
キャリーを転がしながらドアの方へ歩き続ける。
ドアの入口で、コスプレ登録用紙を手渡されて
そこ欄を鞄から取り出したボールペンで記入すると、
更衣室利用料と一緒に、スタッフに手渡して、番号札と缶バッジに交換する。
【女性用更衣室はこちら】
張り紙を追いかけながら、
向かった先で、私と和羽は今日のキャラクターに変身する。
今日の私と和羽は、
お気に入りの幕末恋愛シュミレーションゲーム『約束の大空』の
キャラクターたちを演じる束の間の時間。
今日の私は三人のヒロインの一人。
歴史が大好きな女の子、瑠花【るか】を演じる。
そんなわけで、相方の和羽には……
だんだら羽織に、髪を結いあげて総司君をご指名。
二人して和羽のお手製衣装に袖を通し、
髪型とメイクを施して、キャリーに番号札を括り付けて
クローゼットスタッフへと預けると、缶バッジをつけて
会場内をプラプラと歩き始めた。
すでに開場時間も来ていたみたいで、
会場内は、外にずらりと並んでいた人たちの熱気で蒸しかえってる。