【B】姫と王子の秘密な関係
「由毅にだけはちゃんと頼ってやれ。
晃介が頼ったからって、
アイツは邪険にするやつでも、重荷を感じる奴でもない。
前世で双子の兄弟だったオレが言うんだから、
間違いない」
不意打ちのようにサラリと前世なんて言葉を告げられて、
普段の俺だと、『前世なんてバカかよ』なんて思ってしまうだろう
俺が何も言い返せなかったのは、運転する勇希さんの横顔が何かを思い返すように
唇を噛みしめながら、真剣な眼差しそのものだったから。
俺の視線を感じたからか、勇希さんは何時もの雰囲気に戻って
視線を俺に向ける。
「悪いな。
前世ってバカみたいだよな。
バカついでに聞いてやってよ。
俺とアイツの前世。
アイツとオレは、一族の長の家系に生まれた双子だったんだよ。
兄貴のアイツは、何でも出来て優秀そのもの。
弟のオレはいつも劣等感を抱いて存在してた。
ある日、オレたちが住んでた世界が闇に覆われた時
アイツ以外の一族は、皆洗脳されちまったんだ。
闇の支配にあがらうことも出来なくてもがいてた。
そんな苦しみから終焉って言う形で、魂を解放してくれたのが
兄貴なんだよ。
前世のオレは、オレの情けなさから兄貴に一族殺しとして汚名を被せた。
だからかな……、今生でアイツを見つけて、全ての前世を取り戻したとき
兄貴を守ってやりたいって思った。
双子じゃ、無理でも親友同士なら出来ることもあんだろ」
そう言って勇希さんが紡ぎ続けた物語は、
倉元由香里のTrancemigrationそのもので。
だけど語られるその言葉の重みは、
やけにリアルすぎて、
物語の主人公になり切って語ってるようには見えなかった。
「悪いっ。
しんみりさせちまったな。
けど……お前の兄貴は、ちゃんと思いやりも優しさも知ってるやつだってこと。
それだけは覚えておいてくれ。
そろそろ、会場につくぞ」
気が付いた時には車は高速を降りて、
会場周辺を走ってた。
会場ゲート周辺、両隣に停まるタクシーに並ぶように
スポーツカーをハザードを出して寄せると、
俺は助手席のドアを開けて降りる。
運転席から降りた勇希さんは、
トランクからキャリーバックを取り出して俺の前に置く。
「楽しんで来いや」
それだけ告げて、車を発進させていった。
勇希さんの車が見えなくなった途端に、
俺はイベント会場へと移動する。
コスプレ専用の入場列の最後尾を目指しながら、
アキラとしての仮面をつけなおす。
今この瞬間からは、俺は早谷晃介でもなく、高崎晃介でもなく
コスプレイヤーのアキラなのだから。
「アキラさん、今日はいらしてたんですね。
今日も土方さんですか?」
「アキラさんがいらっしゃるなら、
私……約束コス持ってきたらよかった」
俺が会場に現れる=約束の土方のイメージが強くなってしまった現状。
次々と声がかけられる、名前も覚えきれてない
レイヤーらしき存在に、うまく会話だけを返しながら最後尾へと移動していく。
その列の最後尾近くに……今日、一番逢いたかった存在が居た。