【B】姫と王子の秘密な関係
「はい。
私もアキラさんと過ごしてみたいって思ってたから。
香寿には、お土産に生菓子でも買って帰ります」
「だったらそのお詫びのケーキは、
俺に支払わせてよ。
今日、こうして出逢わせて貰えたのも
楽しい時間を貰えたのも、香寿さんあってだからさ」
「……ですね」
その後、俺は初めて彼女と一緒に街を歩き
夕食を楽しんで、祝日と重なる月曜日の明日、
デートの約束を取り付けた。
この恋の行方が、どの未来に繋がっているかなんて
正直、わからないけど
それでも今は、彼女のことをもっと知りたいと思った。
アキラとしての俺が、彼女と繋ぐ突破口になるのなら
今はそれでもいい。
アキラを突破口にして、
本当の彼女にまで辿り着きたい……。
今はそんな風にすら思ってしまう。
彼女の自宅の最寄り駅からタクシーに乗って、
彼女を自宅まで送り届けると、
俺は自身の最寄り駅へと電車で移動する。
マンションまでの道程を歩いていると、
背後からリムジンが近づいてきて、
俺の傍でハザードと共に、ゆっくりと寄せられる。
「お帰り、晃介」
窓が開いて声をかけられる。
今朝、逢ったばかりの兄の隣には、
兄の婚約者である、櫻柳桜吏嬢。
「由毅、こちらが」
「あぁ、晃介。
僕の弟です」
窓越しに話していると、
運転手が慌ててドアの方へと降りてきて、
乗りやすいようにドアを開く。
「マンションまで送るよ」
兄の言葉の後、
追い打ちをかけるように微笑む桜吏嬢。
拒否権なしの沈黙の圧力に、
諦めて車に乗り込む。
兄と桜吏嬢の対面に座る俺は、
やっぱり異分子な感じがして、居心地が悪くなった。
「晃介、明日の予定は?」
「明日は……」
初めてのデートを取り付けた。
なんて普通の兄弟だったら、
軽い雰囲気で言えるのか?
だけど……俺は、やっぱり言えないでいた。
兄は確実に、早谷側の人間で
俺の立場よりも上なのは違いないから。
「あらっ、由毅そんな言い方したら、晃介さんが可哀想だわ。
晃介さん、貴方の想いは伝えられまして?
男でしたら、勿論……デートの一つは取り付けまして?」
桜吏嬢?
あまりにも俺がイメージしていた、
櫻柳の御令嬢のイメージと、現実がかけ離れているように感じられて
思わず言葉を失う。
「桜吏さん……」
戸惑う様に婚約者の名を呼ぶ兄さん。
「晃介さん、私からのプレゼントですわ」
そうやって彼女のポーチから取り出したのは
【VIP】の文字と、しだれ桜の刻印が刻まれてる一枚のカード。
「早谷の関わる場所で、デートはやりづらいでしょう?
だから櫻柳が関わる場所を選んで、楽しんでらっしゃい。
このカードを責任者に見せるだけで、
晃介さんは櫻柳桜吏の客として丁重に持て成されるわ」
手渡されるままに受け取る、一枚のIDカード。