【B】姫と王子の秘密な関係
デートの日の朝。
ドキドキして、遠足前の子供みたいに眠れなかった
少し睡眠不足の体に、昨日準備した衣装を身に着けて
念入りにメイクをした。
デートって言う響きが、私の心を軽くしてくれる。
約束時間は9時。
8時半、家を出て私は自分の最寄り駅へと向かった。
駅に辿り着いた時には、
カジュアルな私服姿に身を包んだアキラさんがすでに居た。
「乙羽ちゃん」
私の名前を呼びながら手を振るアキラさんに、
恥ずかしさも感じながら、私は駆け寄る。
こんなにも早く、待ち合わせ場所に来てくれたアキラさんへの嬉しさと、
ここは私の地元だから、知り合いにあわないかドキドキすぎるわけで
そう言う意味においては、目立たないで欲しいなぁーって言う恥ずかしさ。
アキラさんは立ってるだけで、絵になる人だって私は思えるから。
「おはようございます」
そう言ってアキラさんの傍に寄り添うものの、
隣に立った途端に感じるのは、沢山の視線。
チラリっと周囲に視線を向けると、
遠巻きに何か耳打ちしながら、アキラさんを捉えてる目。
そんな人たちが、聞こえない声で耳打ちするたびに
『釣り合わない』って言われてるような気がして、
心が苦しくなる。
何時からこんなに被害妄想が激しくなった?
アキラさんと傍に居るのは嬉しいのに、
逢って数分で、心が苦しくなり始めてる私自身を感じてる。
楽しい時間のはずなのに……。
「乙羽ちゃん?」
心配そうに覗き込んでくれる、アキラさんのそんな仕草にすら
ドキっとしてる私が存在してるのに。
「あっ、ごめんなさい。
今日は凄く楽しみにしてたんだけど……」
『アキラさんの傍って本当に女の子たちの視線が突き刺さる』
続けそうになった言葉を慌てて呑み込む。
最後までいったら、私が嫌な女になっちゃう。
すでにもう……嫌な女になってる。
それ以上、自分を嫌いになりたくない。
「楽しみにしてたんだけど……」
私の言葉を繰り返すように告げて、続きを待ってくれるアキラさん。
「あっ、えっと凄く楽しみにしてたんですよ。
うん、あれ?
私、何言ってるんだろ。
アキラさんが迎えに来てくれてたのは嬉しかったんだけど、
もうかしたら、車とか乗れるのかなーっとか。
アキラさんの愛車に乗れるのかなーっとか」
えっ?
私、何言ってる?
別に愛車とか関係ないじゃん。
「車かぁ。
それは乙羽ちゃんを悲しませちゃったかな。
乙羽ちゃんは車好きなの?」
「ドライブは好きかな。
後、車の運転も」
「そっかぁー。
俺は車は助手席か後部座席専門。
免許まだ持ってないんだよ」
アキラさんはそんな風に告げて、
空に視線をうつす。
その瞬間、僅かに見せた表情は顔色が曇って視えた。
そんなアキラさんを抱きしめたくなる衝動を覚える。
多分、母性本能にも近いのかな。
こんな僅かな時間の中で、
私が知らない私が次々と飛び出してる。
「アキラさん、私の助手席乗りますか?」
自分で告げた言葉に、自分自身がびっくりする。