【B】姫と王子の秘密な関係


「音羽、それで伊代さまとは?」

「あっ、連絡してみるよ。
 今回、伊代さま斎藤さんしてるみたいなんだよねー」

「えっ?

 伊代さま、一【はじめ】ちゃんしてるの?
 見てみたいー。

 でも笑われちゃうかなー。
 多分、私総司似合ってないし……」

「いやいやっ、
 男装の麗人になった和羽も素敵だよー」



二人そんな会話をしながら会場を歩いていると、
一般のお客様の視線を感じる。



「あっ、あの……瑠花ちゃんと沖田さん」

キャラクターの名前を口にしながら、
私たちに近づいてくる。


「あっ、写真ね……。

 うん、いいよ」



和羽がすぐに対応して、
私の方にコンタクト。


男装が嫌いだなんて言いながら、
こういう時は、男性役そのまま。


大好きな宝塚歌劇の男役のようにキリっと変身しちゃう、
心強い相棒の和羽。



二人、ゲームのスチルのように
仕草を合わせて、ポーズを決める。



その瞬間、シャッターの嵐。


最初申し込んできた子たちも撮ってるけど、

『こちらもお願いします』
『撮らせてください』


なんて一気に便乗組が押し寄せてくる。



そこに伊代さまの斎藤さんと、
伊代さまのお友達が、舞ちゃんのコスをしてて
四人揃ったら、ちょっと圧巻。



マナーないままに盗み撮りしてる人から、
ちゃんと声をかけて撮影してる人達まで。



しばらく身動き取れないまま時間を過ごして、
解放されたのは、15分後くらい。



逃げ出すように、お辞儀をして
四人でその場から動き出す。




そのまま四人で歩いていると、やっぱり遠巻きから視線は感じるけど
二人の時の様に、声をかけてくるものはいない。


一人でも、四人くらいになりすぎてても
声ってかけづらいのかもしれない。




「あっ、香寿【かず】さま今日素敵ですね」


なんて伊代さまにも言われてる、私の仮王子。


「私なんてまだまだですよ。
 伊代さまに、もっといろいろと教えていただきたいです」


こらこら和羽。
謙遜しすぎるのも良くないんだぞー。


ちなみに、香寿って言うのが和羽のレイヤーネーム。


「あっ、そうそう。
 乙羽さま、香寿さま、知ってますか?

 今日、SNS情報ですけどアキラさんいらっしゃる予定だって
 書いてましたね」



アキラ。

ここ数年で名前を聞くようになった、
有名なコスプレイヤーの名前。


アキラなんてありふれた名前だから、
アキラ違いの別人だったって話もねー。



まっ、本人だったら
噂のその人に会ってみたい気がするけど。


そんなことを考えながら、
移動していると視界の向こうに、物凄い人だかり。


その人だかりの中から、
長い黒髪を解いたまま、
着流し姿で写真撮影に応じている人がいた。




「あっ、噂は本当だったみたいですわ。
 あの方が、アキラさまです。

 今日は土方さんをされてますわね」



そう言って伊代さまは紡ぐと、
私たちの手を引いて、
その人の中にツカツカと入っていった。

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