【B】姫と王子の秘密な関係

今回チョイスしたのは、平安装束。
源氏物語の世界をアキラさんと楽しんでみたいなーっと。


着付けのお世話をしてくれるスタッフさんにも助けて貰いながら、
完コス目指して、鏡の前で変身していく私。


遠野音羽じゃなくて、今から数時間の間は紫の上。


変身を遂げて、衣装ルームから出ると
すでに着替えを済ませた、
アキラさんがゆっくりと姫をエスコートするように手を差し出す。


一緒に居る人が、あのアキラさんだと気が付く人たちも
この場所には多い。


遠慮気に話しかけてくるその人たちに

「今日は完全プライベートなので、彼女の了承を得られれば」

そう言いながら、私の方に視線を向ける。



独り占めなんてズルい。


そうやって告げられるような眼差しが、
突き刺さって私は『どうぞ』と小さく呟いて俯く。


アキラさんがかっこいいって言うのは、
今に始まったわけじゃない。



記念に残したかったけど、
だけどこうなるのはわからなかったわけじゃないじゃない。

何時もイベントで経験してるんだから。



せっかく十二単に身を包んで、
精一杯、頑張ってるのに……勢いで選んだ衣装がこんなにも動きづらい何て。


長袴を擦りながら歩くのではなく、
半分やけくそに、長袴を勢いで蹴り上げた途端、態勢を崩してよろめく。

そんな私を支えてくれたのは、紛れもなくアキラさんで。



「乙羽ちゃん、それ無理だから。
　十二単で暴れないでほしいかな。

　それに嫌だったら、どうぞなんて言わない。

　ちゃんと嫌だって伝えてくれたら、
　俺も、拘束されずに済んだんだから」



そうやって耳元でささやかれた言葉。


アキラさんも嫌だったの？
私との時間を優先してくれてたの？



「悪い、四階の時代・歴史階を貸切に出来ないかな？
　後、こちらのカメラマンを一人」



アキラさんのその後の行動は早くて、
四階スペースを二時間、貸切にしてプロのカメラマンを手配してくれる。


ほっと息抜きが出来るようになった少人数の空間で、
私たちは、いろんなポージングとシチュエーションで写真を楽しんだ。


部屋の四方、四方に作られた異なるイメージの撮影スペースを使ったり、
背景映像を変えて、四季折々の空間を楽しんだり。


気が付けば、夕方が近づいている時間。

そのスタジオを私たちは後にした。


手には記念の写真の一部を持って。
正式には、アルバム状態になって我が家に直接郵送される予定。


まさか、アルバムをオーダーして貰えるなんて思わなかったけど
そのスタジオで支払った金額は、私の予算をはるかに超える金額だった。



「乙羽ちゃん、貴重な初体験をどうも。

　後、一件ほど付き合ってほしいんだけど……
　門限は？」

「あっ、大丈夫です。
　うちの親、干渉しないんで」

「干渉しないって、そう言う問題じゃないよ。

　乙羽ちゃんのご両親がどんな仕事をされてるのか、
　俺にはわからないけど、俺には両親は居ないから。

　そう言う意味では、乙羽ちゃんが羨ましいと思う反面、
　いい思いもしないかな。

　親なんて、本当に突然居なくなるんだ」



アキラさんのそんなトーンが、
私の心にずっしりと突き刺さって影を落とした。



「じゃ、電話だけ今からしますね」



本当は……あんまり電話をする気にはならなかったけど、
アキラさんの手前、電話をかける素振りをした。


今は現実から目を反らしたいだけ。



その後、アキラさんに連れられて向かったのは、
ホテルの中にある、日本料理の専門店。


ゆっくりと出される懐石料理に箸を進ませながら、
目の前のアキラさんの存在を考える。