【B】姫と王子の秘密な関係



私にとってアキラさんは、コスプレ用の名前しか知らない存在。


この人は、どんな人なんだろう。

食事に誘ってくれて、
連れられたのはこんな立派な場所。


受付で、アキラさんが持つカードを見せた途端に
スタッフは顔色を変えたようにも見えた。



変な緊張の時間が続きながら、
美しく彩られた料理に箸を進める。


ふいに、外から花火の音が聞こえて
私は立ち上がって和室の襖をあけた。




その花火は、幼い日の王子様を思い起こしてくれる。


うっとりするように、窓越しに見つめていると
私の後ろに、アキラさんも寄り添う様に腰掛ける。




「どうしたの?」

「花火……私にとっては特別なんです。

 小さい頃、迷子になった時に、
 私を助けてくれた人が居て、私にとってその人は王子様で……」

「王子様?

 少し焼けるよね……。
 乙羽ちゃんにそんな風に思って貰えるなんて」


暫くの沈黙の後、更にアキラさんは言葉を続けた。


『キスしていい?』




戸惑いながらも頷いた私の唇に、
アキラさんの唇が、ゆっくりと重なった。



私たちの背後には、
美しい大輪の花が咲き誇る。


花火の美しさを感じながら、
ありのままの私で、アキラさんの体に自分を委ねる。



「乙羽ちゃん……」

名前を紡がれて、
反射的に体を起こして顔を見つめようとする。


「そのままでいいよ。
 今はこのままでいいから、じっとしてて……」


紡がれた言葉を受けて、
私はもう一度アキラさんに体を寄せる。



「進路で悩んでるって前に電話で話してくれたよね。

 学生時代って、悩むのは当然だし
 なかなかこれってモノが見つめられないのも仕方がないことじゃないかな?

 俺もやっぱり、将来のことを考えるといろんなことを思ってしまう。
 だけど……今、俺が言い聞かせてることは、力を抜くこと。

 一生を左右すると思うから、苦しくなる。
 だから立ち止まって力を抜いて、今出来ることを一つずつやっていけばどうかな?

 どんな未来を選んでも、歩いてきた道のりは財産になる。
 それが資格とかで、形に残せるものであればそれ以上に」



最後の最後……
サラリと紡がれたアキラさんの言葉。


難しいことを言われたわけでも、
毒別なことを言われたわけでもない。


だけどその言葉が心に届いた時、
体の力が気に抜けたように思えた。



初めてのデートは、
瞬く間に時間が過ぎて、
帰りは、アキラさんの手配してくれた代行運転の人が
最寄りのレンタカーSHOPまで車を動かしてくれて
そこからタクシーに乗り換えて、自宅までの道程を帰宅する。



「おやすみなさい。
 今日は有難うございました」

「おやすみ」


タクシーを降りて、ゆっくりとお辞儀すると
私が家の中に入ったのを見届けて、
タクシーのエンジン音が遠のいていった。







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