【B】姫と王子の秘密な関係
「梁田オーナーは先ほど、ご家族と一緒に自宅へ向かった。
明後日、セレモニーホールに移動後、夕方から通夜。
明々後日、9時から告別式となった。
至急、応援スタッフを手配する」
俺に告げて事務所に入る小川さん。
電話をしてる小川さんの傍、コンピューターを叩いて
ここ数日のシフト状況をプリントする。
店舗のオーナーが他界したということは、
関係者やスタッフの中かからも、お通夜・葬儀と出席する。
家族で運営していることが多いコンビニでは、
その間は、スタッフである家族を戦力としてあてにすることは出来ない。
だからといって人員がいないからお通夜・葬儀の間はお店を休ませることも出来ない。
それゆえに、何事もないように営業を続ける為に
俺たち本部に連なる存在が、応援要員として穴埋めに入っていく。
どれだけ悲しみに包まれてる家族が居ても、
お客様には関係ないのがコンビニ。
コンビニを必要としてくれるお客様の為に、
何事もないように店を開け続ける。
暫くの間、小川さんと俺の二人で店舗を回し、
9時前には、本部から派遣されたアシスタントマネ-ジャーたちが合流して
店舗業務を始めた。
「小川さん、今日の予定は?」
「店長であるオーナー夫人と今後の話し合いを。
この店の売上状況から考えて、連帯責任者であるオーナー夫人兼店長に
時期オーナーとして引き継いでほしい。
告別式の翌日から、経営を引きついで貰えるように交渉に入る」
配偶者が亡くなった今くらい、そっとしておけよって思ってしまう俺自身。
だけどその思いを声にに出すことも出来ない、情けない俺自身。
小川さんの後を追いかけるように、後ろをついてまわっては
亡きオーナーさんが一時的に最後の帰宅をしているご自宅へと踏み入れた。
突然のお父さんを失って困惑している、高校生くらいのお子さん。
「何時かはこうなるような気がしとったんじゃ。
陵介【りょうすけ】君は、休みという休みもないままに働きどおし。
親戚付き合いすらも出来ぬほど、時間に追われとった」
「兄さん、今ここでそんなこと言っても仕方ないわ。
もう終わってしまったんだもの。
洋子【ようこ】さん、兄はコンビニに殺されたのよ」
俺たちが案内されて、オーナーの遺体が眠る部屋へと連れられた時には
親族感で感情的に言い争っている現場だった。
一瞬、足が竦んで動けなくなった空気の中に、
小川さんは、何事もないように歩いて入っては、
店長である奥さんに、お悔やみの言葉を告げて静かに手を合わせた。
「高崎、何をしている。
梁田オーナーに敬意を」
小川さんに告げられて、慌てて近くまで歩み寄ると
俺もゆっくりと両手を合掌して拝んだ。
気になるのは……高校生の子供。
そんな子供の姿と、俺自身の昔が重なっていく。