【B】姫と王子の秘密な関係
「そう言ってくださる頃だと思ってました。
なら、今日から時間が許す限り、これくらいの時間しか顔を出せないと思いますが
顔を出します。
今から30分の間、事務所でマニュアルAの第1章第1項から、第五章第7項までを閲覧してきてください。
その間のフロアーの方は俺が受け持ちます。
シフト終了後、30分だけお二人の時間を延長させてください。
簡易テストの問題を解いてもらいます」
突然告げられた言葉に、私は和羽と顔を合わせて驚きを隠せない。
どうして高崎さんが、そこまでしてくれるの?
それに私が受験を受けるって言ってくれる頃だと思ってたって、
さっき言った高崎さんの言葉が引っかかる。
「いらっしゃいませ、こんばんは」
ドアに背中を向けていた私たちは、反応できなかったのに
高崎さんは、立っているところから360度、常に神経を張り巡らせて気配探知機があるかのように
綺麗なお辞儀と共に、笑顔を携えてお客様を迎え入れる。
慌てて高崎さんに続いて、挨拶とお辞儀をする私と和羽に、
近所のおじさんは「なんや、今日はえらいさんに絞られとんか?」なんて
私たちの方を見ながら笑ってる。
「山川さん、こんばんは。
そんなことないですよー、それより今日はお仕事遅かったんですねー」
「まぁな。
家から片道、3時間のところで家建てとるからな。
朝も早うて、夜も遅いわ」
「お疲れ様。
実里(みのり)ちゃん、生まれたばっかのお父さんなんだから
無理して倒れないでよ」
「おぅよ。
音羽ちゃん、和羽ちゃん、もう少し実里が大きくなったら
ここに[はじめてのおつかい]させるからな。
その時は頼んだぞ」
「もうっ、山川さん。
親ばかすぎです。
でもお使いの中身は、タバコとアルコール以外にしてくださいよ。
未成年には販売できませんから」
「俺も、ここがなくなるのはヤバいからな。
未成年に売ったら、罰金50万円以下やったか?
売った奴と、販売した店の責任者と。
後は、販売免許の剥奪やったよな。
マジ、くだらん社会だよな。
買った未成年は、何一つおとがめなしだからな」
レジ前で話し込んでしまった私と山川さんの会話に、
高崎さんからの視線は鋭い。
「あっ、すまんすまん。
音羽ちゃん、和羽ちゃん、おえらさんが睨んどるな。
仕事頑張れよ」
元ここのスタッフ経験者でもある山川さんは、
高崎さんの立つレジへと向かって、
私たちもまた課題をこなしに事務所へと向かった。
指定されたマニュアルの分だけ、
きっちりとコンピューター越しに資料を読み込むと、
退勤の後、さらに事務所で勉強を続ける。
鞄から取り出されたのは、
高崎さんが作ってくれたらしい、テスト問題。
空白を埋めていく形で、作られたテスト問題を回答して
目の前で採点。
その後は、普段のフロアー業務に関する問題集を手渡された。