【B】姫と王子の秘密な関係
残り二軒もお邪魔する。
一軒は留守。
最後の一軒は、幼稚園と小学生のお子さんが居る
お母さんが出てくる。
梁田さんというオーナーさんが前回のオーナーなのか、
その名前を何度も連呼して、ひたすらその方のことを慕っておられた若いお母さん。
そのお母さんが、高崎さんに要望として求めたのは
ある意味、店舗からしてみればびっくりするような要望だった。
どんな内容かと言うと明らかに『虐め』が絡んで居そうな買い物の時は、
お店のスタッフがそれを阻止してほしいというものだった。
最近、子供たちに逸っている『メダル』や『カードゲーム』。
メダルにしても、カードゲームにしても200円~300円前後一つの値段がする。
学校内でも流行る、それらの商品は欲しい子も多くて、中には他の生徒に強要して
自分が欲しいものを手に入れようとする子もいるらしい。
このお母さんも、子供が自分のお金を盗んで、コンビニで箱買いをした過去があり
コンビニが『放課後の虐め』の現場になっていることを告げた。
スタッフ側からしてみれば、
アンタたち親の子供管理不足じゃないの?
こっちは商品は売れるほうがいんだからって言う感じなんだけど、
そうは言えないんだろうな。
「貴重なご意見ありがとうございます。
コンビニの存在意義として、街のセーフティーステーションとなることを掲げております。
お子様方のお買いもの状況を常に監視することは難しいですし、
一箱のまとめ買いを希望されたからといって、必ずしもその背景に苛めが絡んでいるとは限りません。
その家その家によって、小学生のお子様たちのお小遣いも差が出ているのが現状の社会です。
ですが最善の注意を払いながら、お子様たちの様子を見た時に明らかに『虐め』などが絡んで居そうなときは
スタッフの方でもお声掛けするように指導してまいりたいと思います。
こればかりは店舗内だけでは、どうしようも出来ませんので、
引き続き、ご家庭や学校の方からもご協力・話し合いをしていただければと思います」
高崎さんは、そう言ってその件と向き合った。
最後の一軒の訪問も終わった頃には、すでに16時半ごろ。
喉が渇いたなーって思えた時、高崎さんが声をかけてくれた。
「音羽さんが時間大丈夫なら、少しお茶していかない?」
そう言って声をかけて返事を待つ。
「時間はありますけど……高崎さんこそ、貴重な時間一緒に過ごしていんですか?
高崎さんに誘われて、断る理由ないんですけど」
もう少し可愛く答えることが出来ればいいけど、
その辺りはとても下手くそな私は可愛げのない答え方しか出来ない。
駅まで戻ると、駅ビルの最上階へとエレベーターで向かっていく。
二人っきりのエレベーター内は、
ただ一緒にいるって言うだけで、意識しすぎて心臓がバクバク拍動を刻んでいく。
エレベーターが到着すると、少し高級そうな喫茶店に入っていく。
こんなところって少し、私自身の財布事情もあって尻込みしてると、さり気なく手を差し出されて
私はエスコートされるように店内へと入っていった。
マネージャークラスのプレートを付けた人が慌てて高崎さんの傍に駆けつけてきた気がするのに、
その人は何事もなかったかのように静かに一礼して、その場から去っていった気がした。
何?
あまりにも一瞬のことだったけど、高崎さん……あなたは何者ですか?
別のウェイトレスが慌てて近寄ってきて、
席へと案内すると、高崎さんはメニュー表を見て注文を始める。
「音羽さん、ついでに俺、夕飯もすませていいかな?」
「はいっ。
大丈夫です」
「良かったら音羽さんも。
ここのパスタはよく雑誌とかにも紹介されて有名なんだ。
俺はこれ。なすとベーコンのなすとベーコンのバルサミコ風スパゲッティ」
手渡されるままにメニュー表と睨めっこするものの、
どれも値段が可愛くない。
大学生に一食、この値段は厳しい。
まだ給料前出し。
「卵とオリーブとクレソンのパスタサラダにします」
これならまだ私のお財布事情でも大丈夫。
帰ってから、給料日までお母さんに借金すれば何とかしのげる。
そう告げると、ウェイトレスを呼び寄せて、同じものを二つずつ高崎さんは注文した。
げっ、予定外。
二つずつ?
嫌な汗だけが惨めに流れていく。