【B】姫と王子の秘密な関係
なんだよ……昔話なんて、
久しぶりに見たな、この夢。
目覚ましに起こされて、体をベッドの上で起こす。
ヘッドの上で伸びをすると、俺はそのまま出社準備を始める。
遠野音羽・檜野和羽。
遠野オーナーの店舗スタッフから、
二人、ストアサブマネージャーの資格を持つものが誕生したことがわかった昨日の夕方。
その日から、遠野オーナーの2号店への準備が慌ただしくなった。
マンションから出て、エントランスを通過しようとしたとき、
ノートパソコンを見つめる由毅兄さんの姿が視界に入った。
「おはようございます。
兄さん、家まで訪ねてきてくださればいいのに」
「休んでるところを邪魔は出来ないよ。
おはよう、晃介。
連日、頑張ってるね」
「まぁ、出来ることを探して勉強してるくらいです。
机上の勉強と、社会に出てからの経験はやっぱり違いますね。
来年の就職を前に、勉強させて貰ってますよ。
祖父さんのやり方は、今も問題がないとは言いきれませんが」
「お祖父様は、何時も厳しい方だからね。
衝突することも多いと思う。
少し話したかったんだ。
近くまで車で送るよ。
今日はフレンドキッチンの社長に、警備部を担うものとして僕自身も用事があるから。
会社の前までは送らないよ」
兄さんに言われるままに、リムジンに乗り込む。
車が動き始めると、俺は思い切って、彼女のことを兄に話す。
「兄さん、警備の対象に一人、追加して貰うことは出来ないかな?
フレンドキッチン 向坂(むこうざか)店 遠野覚の長女・遠野音羽」
「その女性は、晃介にとって大切な存在ってことでいいの?」
問いかけられた質問に、俺はただ頷いた。
彼女は何処かの企業のご令嬢って言うわけでもないし、
言ってしまえば、フレンドキッチンの末端の一店舗を守るオーナーの娘。
祖父の経営する、早谷コーポレートの未来の安定の為に役立つ存在とは言えないかもしれない。
だけど……彼女こそが、今の俺にとって一番必要な人になると思えるから。
「駅ビルの坂井さんのところに一緒に行ってた女性だよね。
そして……晃介がイベントで羽根を伸ばしている時も、一緒に傍に居る女性。
晃介に好きな人が出来たというなら、僕に反対する理由はないよ。
遠野音羽さん。
警備対象に名を連ねておく」
言うのと同時に、ノートパソコンを触って兄さんはすぐに手続きを始めてくれる。