【B】姫と王子の秘密な関係
車は静かに停車し、俺は人気が少ない場所でリムジンを降りて、
大通りに出た後、会社の建物へと入った。
クリスマスの週に2号店OPENを目指して、
ミーティングは次々と進められていく。
ストアサブマネージャーの証明書と、バッジ音羽さんと檜野さんへと届けると同時に、
遠野オーナーには、2号店に関わる契約書類を交わして貰う。
本部預かりになっていた桜川1丁目店を、
改装工事をするために、既存在庫を一度セールで売りつくして全面リニューアル。
オープンケースの交換や、傷んだゴンドラの交換。
休憩スペースを新たに設置させて、より地域に密着させた形にしていく。
新オーナーが遠野オーナーになると言うことで、
桜川1丁目店で働いているスタッフの再面談。
営業許可の申請。
慌ただしいようにリニューアル開店までの準備が進められていく。
完全な新店の場合は、建物の設置からオープンまでの期日は約1ヶ月半。
だけど今回はリニューアル開店での、新オーナーに移行の為
2週間ほどの間で全ての作業を完了させないといけない。
当然、向坂店と、桜川1丁目店。
遠野オーナーも、両方の店舗を1日の間に何度も行ったり来たりして
作業を進めていく。
そんな作業が急ピッチで進められている店舗内の事務所に、
平テーブルを出して、顔を合わせるのは、桜川1丁目店で働くスタッフたち。
向坂店からは、音羽さんと檜野さんがその日の曜日によって、
桜川1丁目店でもシフトになっている。
桜川1丁目店の店長は、梁田オーナーの時代からこの店舗の店長を受け持ってくれていた
飯田さんがそのまま受け継ぐ形になった。
そんなスタッフたちの顔合わせの場に、俺が先日までの間にフィールドワークで集めた情報を
資料にまとめたプリント用紙を束ねた冊子を手渡していく。
「高崎さん、これって……」
真っ先に資料を見た途端に、声を上げたのは音羽さん。
「えっと手元の資料を見てください。
この資料は、梁田オーナーが亡くなられて本部預かりになった時から、今日までの間に
周辺の家を1軒1軒回って、お客様と直にコミュニケーションをとったデーターです。
まず、このデーターと過去の桜川1丁目店の資料を確認したうえで、
各、発注担当者に今後の発注計画をまとめて頂きたいと思います」
いきなり告げた内容に、旧桜川1丁目店のスタッフからはブーイングの声が上がるものの
俺の言葉の後、音羽さんと檜野さんだけは二人で何度か会話しながら、
手元の紙に何かを記載していく。
ストアサブマネージャーのバッジが、
制服であるブラックスーツの上でキラリと光る。
15分後、再び発注計画に関するディスカッション。
その後も、後輩を指導するための方法、コンビニの店舗スタッフの質を上げるためにはどういうことが必要か、
スタッフの視点から思う商品開発に関する意見などを順番に話し合いながら、
何度も何度も研修を重ねて、開店準備を進めた。
12月半ば。
クリスマスを3日後に控えた寒い朝、フレンドキッチン桜川1丁目店は
遠野オーナーの2号店として、新しい一歩を踏み出し始めた。
前日のリニューアルオープンの広告の封入、
そして店舗スタッフと共に、広告を持って周辺を歩いたフィ-ルドワークの効果もあって
朝から周辺のお客様が集まってくれる。
入口のドアの前には花輪が飾られて、店内もオープニングセールの商品で溢れかえる。
本部のスタッフと遠野オーナー。
そして初日のシフトスタッフとして朝一から顔を出している音羽さん。
オープン前の最後のミーティングが終わって、
オープニングセレモニー。
フレンドキッチンの本社より、地区部長だけでなく
本部長である、藤井さんも桜川1丁目店に姿を見せた。
これには、本部のスタッフたちにも緊張が入る。
俺にとっては、藤井さんの隣に……
あの人、義父である早谷仁人の姿まで視界に入る。
テープカットに、義父と藤井さんからの祝辞、遠野オーナーの挨拶。
朝7時、新生桜川1丁目店が、息吹をあげた。