スタートライン~私と先生と彼~【完結】

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いつもの朝の風景。

人、人、人・・・。

やっぱり人込みって苦手なんよな。

ホームで人の多さに顔を歪めていると、いつも乗っている電車が予定通りに到着した。


ドアが開いた瞬間、溢れるように出てくる乗客の中にいた人物に私は驚いた。

「原田・・・」

そう言う先生は驚いた表情をしていた。


いやいや、驚くのは私の方やから!

先生はいつも車で通勤しているのを知っていたので、突然現れた先生に私は動揺を隠す余裕なんてなかった。


「先生・・・。おはようございます」


挨拶をするのが精一杯だった。

聞きたいことなんて聞けるわけがなかった。

「おはよう」


私達は、電車に乗り込んだ。

私はいつもは、ドアの方を向き、外の景色を見ているのだが、先生の登場で舞い上がり、先生と向かい合わせになった。

先生はドアの方を向いて立ち、ドアに右手をついている。私達の間には、もう一人入れるくらいのスペースがある。


「いつもこんな混んでるのか?」

私の目の前にいる先生が話し掛けてくれたが、なんて答えていいのかがわからなくなっていた。

「はい」

この近距離でこれ以上話せないよ・・・。

「せ、先生はいつも車ですよね?」

私は勇気を振り絞って聞くが、噛んでしまったし・・・。先生も気付いてるよね・・・私が動揺してること。


「あぁ、今日、仕事が終わってから飲み会あるから・・・」

「そうなんや〜」

やばい!静まって、私の心臓!私は、深呼吸をしながら気持ちを落ち着かせた。少しだけ馴れてくると、先生のことを見ることができた。


今日は青いネクタイ。

髪はちょっと寝癖あるし・・・。

髭の剃り残しも少しある・・・。

しばらく先生の観察をして、もうすぐ次の駅に着くという頃に、突然、急ブレーキがかかった。



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