スタートライン~私と先生と彼~【完結】
「あら、意外ときれいにしてるんやね」
母さんが俺の部屋に入った時の第一声だ。
「お兄ちゃん、彼女に掃除してもらってるの?」
「お前は、またそういうことを言う!」
なんやねんお前は!
「あら隆、彼女いるの?」
涼の言葉に母さんまでが乗ってきてるし。
「いないよ」
でも、好きで好きでたまらない子はいる。
「そっかぁ、母さん、隆の彼女に会いたかったなぁ」
・・・・・・ごめんよ。俺がへたれだから、言えないんだ。
俺は話題を変えようとキッチンに向かって、ケーキを出す用意をしようと思った。
「あっ、ケーキ食べる?」
「うん」
真っ先に涼が寄ってくると、箱の中を覗き込んで目を輝かせていた。
「おいしそう♪」
そりゃそうだ。俺が厳選したんやからな!
まぁ、他のどれもおいしそうやったけどな。
ケーキも食べ終わり、近況を報告していたら、「これ忘れてた」と、母さんが思い出したかのように大きな包みを取り出した。
「あんた、どうせろくな物食べてないと思ってね、作って来たんよ。冷凍しておいたら大丈夫やから」
包みの中には、いくつかのタッパーが入っていて、中身は母さんの手作り料理。
そして母さんはそのタッパーを持って冷蔵庫に向かった。
「お兄ちゃん、お母さんね、本当に心配してるんやから、早く彼女の顔を見せてあげなよ」
涼が母さんの姿を見ながら、小さな声で言った。
「ああ」
わかってるよ。
母さん、料理ができない俺の事を心配して、入試が終わってから、簡単に作れる料理を教えてくれようとしたのに、嫌がってごめんな。
なんか、照れ臭かったんや・・・。
夕方になり、母さんと妹は帰って行った。
『お料理を作ってくれる子がちゃんといるんやね。母さん、安心したよ。また連れて来てよ。』
帰りがけに母さんは言った。
俺は何の事を言っているのかわからなかった。
しかし俺は今、冷蔵庫を開けて気付いた。
昨日さっちゃんが作りすぎたからと貰った、かぼちゃの煮付けとポテトサラダが冷蔵庫に入ってたのを見たんやな。
これは俺の彼女が作ったのではなく、俺が好きな子が作ったんやで。
ただ、俺が大好きなだけなんだ。