朧月


「イチくん、はい。」


彼女は僕に1万円札を5枚手渡した。


「ありがとう。」


あぁ、駄目だ。ど忘れした。

名前が出てこない。

彼女は僕の手を握ったまま離そうとしなかった。

僕も微笑みながら手を握り返す。



「ミカ、寂しいな。」


そう。ミカだった。

名乗ってくれてありがとう。
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