朧月
―一目惚れ―
慣れないスーツに袖を通すと、背が低くて童顔の私にはとても似合わなかった。
思わず1人、鏡の前で笑ってしまった。
時計を見ると、もう家を出る時間。
私は忘れ物がないか部屋を一周してから玄関に向かった。
今日は大学の入学式。
実家から大学は通えない距離ではないけれど、無理を言って一人暮らしをさせてもらった。
早く家を出たかった。
家族と仲が悪いわけでもないし、居心地が悪いわけでもない。
なんとなく、1人が良かった。
私は、またこちらも慣れないパンプスを履くと部屋を出た。