朧月
―空―
ピンポ-ン
ピンポ-ン
立ち上がろうとした彼氏の腕を引っ張って、私が立ち上がった。
なんだか自分が出た方が良い気がしたから。
高校を卒業したあと、すぐにできた彼氏。
2つ年上の大学生。すごく優しい人だと思う。
「はい。」
「…あー…あの。僕、こないだの桜沢陸なんですけど。」
桜沢陸?
誰だろう?
「どちらの桜沢さんですかね?」
「…あー。こないだもここに来た、同じ大学の。」
あぁ。どんくさちゃん。
「どうかしました?」
「今、平気ですか?」
「いえ。あまり。」
「空ちゃんの件で。」
あらら。私の話は聞こえていないみたい。
彼氏が来ているから、あまり面倒にはしたくないのだけれど。
私は受話器を置くと玄関へと向かう。