時間差ラブレター
朝、電車にて。
春と聞いて連想するものはなんでしょう?テレビに映るアナウンサーが、ピンク色に染まった川際の風景を背に、そんなことを問い掛けてくる。
朝食の食パンを口に詰め込みながら、卒業、入学、進級、お花見、桜、ひなあられ、よもぎ餅……なんて指折り数えて頭の中に浮かべてみたり。
私がぼーっとしていることに気付いたお母さんから「新学期早々遅刻するわよ!」と檄が飛んで来て、慌てて口の中の食べ物を牛乳で流し込み、スクールバッグを引っ付かんで家を飛び出した。
「いってきまーす!」
家から少し歩くと最寄りの駅が見えて、電車の到着を知らせるアナウンスが響く。改札にICカードをくっつけて、ピッという音と共に1番線に止まった電車に駆け込んだ。
「おはよー、椿(つばき)。朝からご苦労様。また寝坊?」
「おはよ、りっちゃん。違うよー!今日はニュース見てたらぼーっとしちゃって」
私の名前を呼んだのは、中学時代からの腐れ縁である稲葉律子(いなばりつこ)。通称りっちゃん。スレンダーな美人さんで陸上部のエースという、私には勿体無いくらい眩しい女の子。
「今日から二年生かー……なんか、あっと言う間だったね。椿、先輩になる意気込みは?」
「意気込みって言っても私はりっちゃんみたいに部活に入ってないからなぁ……ま、去年みたいにマイペースに過ごすつもりだよ。また今度陸上部見に行ってもいい?」
「もちろん。どうせならマネージャーになっちゃえばいいのに」
「更じゃない?それにマネになったらりっちゃんの走ってるとこ見れないし」
それもそうかと納得して頷くりっちゃんに笑って、少し走って乾いた喉を潤そうとバッグからペットボトルを取り出そうと少し目を逸らしたその時、どきりと心臓が嫌な音を立てた。
りっちゃんの後ろ――車両の端っこにいる、たんぽぽ色の髪をした大きな人と、目が合ってしまったのだ。
「椿?どうしたの」
動かなくなった私を見て、りっちゃんが私の視線の先を追いかけるように振り向いた。それも一瞬の出来事で、すぐに向き直ったりっちゃんは、バチンと私の両頬を掴んで顔を寄せる。
朝食の食パンを口に詰め込みながら、卒業、入学、進級、お花見、桜、ひなあられ、よもぎ餅……なんて指折り数えて頭の中に浮かべてみたり。
私がぼーっとしていることに気付いたお母さんから「新学期早々遅刻するわよ!」と檄が飛んで来て、慌てて口の中の食べ物を牛乳で流し込み、スクールバッグを引っ付かんで家を飛び出した。
「いってきまーす!」
家から少し歩くと最寄りの駅が見えて、電車の到着を知らせるアナウンスが響く。改札にICカードをくっつけて、ピッという音と共に1番線に止まった電車に駆け込んだ。
「おはよー、椿(つばき)。朝からご苦労様。また寝坊?」
「おはよ、りっちゃん。違うよー!今日はニュース見てたらぼーっとしちゃって」
私の名前を呼んだのは、中学時代からの腐れ縁である稲葉律子(いなばりつこ)。通称りっちゃん。スレンダーな美人さんで陸上部のエースという、私には勿体無いくらい眩しい女の子。
「今日から二年生かー……なんか、あっと言う間だったね。椿、先輩になる意気込みは?」
「意気込みって言っても私はりっちゃんみたいに部活に入ってないからなぁ……ま、去年みたいにマイペースに過ごすつもりだよ。また今度陸上部見に行ってもいい?」
「もちろん。どうせならマネージャーになっちゃえばいいのに」
「更じゃない?それにマネになったらりっちゃんの走ってるとこ見れないし」
それもそうかと納得して頷くりっちゃんに笑って、少し走って乾いた喉を潤そうとバッグからペットボトルを取り出そうと少し目を逸らしたその時、どきりと心臓が嫌な音を立てた。
りっちゃんの後ろ――車両の端っこにいる、たんぽぽ色の髪をした大きな人と、目が合ってしまったのだ。
「椿?どうしたの」
動かなくなった私を見て、りっちゃんが私の視線の先を追いかけるように振り向いた。それも一瞬の出来事で、すぐに向き直ったりっちゃんは、バチンと私の両頬を掴んで顔を寄せる。