Sweet Mother's Day
「……店長に話したら叱られちゃったんだ」
「どうして?」
「そんなことをされちゃうのは、俺が奥さんと子供をほったらかしにしているからだって。早く一人前になりたくて頑張っているのは分かるけど、このままにしていたら、夢を叶える頃には奥さんの事も子供の事も何も分からなくなっちまうぞって言われた」
肩が触れ合って、ぬくもりが優しく伝わる。
彼の声が、優しく私の心を溶かしていく。
「俺、店長にお願いしてシフト変更してもらったんだ。これからは、月に2回日曜日に休みを取る。今まで、ほったらかしにしていてごめん。翔太の事も、麻由に任せてばっかりでごめん。これからは、ちゃんと皆で過ごす時間を作る。だから、俺をちゃんと翔太の父親にさせてくれよ」
“父親になる”
それは女が母親になることより難しいのかも知れない。
私は自分が精一杯になりすぎて、彼からその役割を奪ってしまっていたのかもしれない。
「……ごめん、ごめんね、佑くん」
ぼろぼろと涙が出た。
私は、佑くんのお給料が自分より少ないことを本当は心のどこかで馬鹿にしてた。
彼が仕事に打ち込むのを、自分のことばっかりなんて非難することもあった。
佑くんは、私たちの為に早く一人前になろうとしてくれてたのに。
そんな風に考えてあげることができなかった。
「……ごめんなさい」
ただただ謝る私を、佑くんは優しく抱きしめてくれた。
「頑張らせすぎて、ごめんな、麻由」
その数日後、保育料の払込口座を佑くんのものに替えた。
佑くんのお小遣いが減っちゃうのに、彼は満足そうな顔をしていた。
その時、思った。
ああやっぱり、佑くんは翔太の父親なんだって。