プラトニック・オーダー
勇吾さんのライブの日がやってきた。
私は結局行く事にしたわけだけど、その少し前に誠二さんのカフェに来ていた。
あまり一人で寄る事はないんだけど、一応誠二さんにも挨拶をしておかなきゃと思ったのだ。
ライブに行くのも、今回で最後にするつもりだった。
「こんにちは」
誠二さんに声を掛けると、彼は微笑んで片手を挙げた。
「薫ちゃん、珍しいね」
「ええ、今日は沙由とライブに行くんで。ついでに誠二さんにお話もあって寄りました」
「ああ、そうなんだ。どうしたの?」
仕事をしていた手を休めて、誠二さんは微笑んだ。
私はカウンターの前に立ったまま、どう切り出したものかと思案した。
ややあって、やっと言葉が見つかった私は口を開く。
「実は、保坂くんと結婚することになりまして。お世話になったので、ご挨拶にと思って。多分、次に保坂くんが来たときに一緒にまた来ると思うんですけど、一応」
「ああ、そうなんだ!よかったね、薫ちゃん」
心底嬉しそうに、どこか安堵したように。
その誠二さんの反応が気にならないわけでもなかったけど、私は小さくお礼を言った。
「でもよかったよー。あいつもさ、結構悩んでたみたいだから」
温かいコーヒーを淹れてくれた誠二さんにお礼を言って、私はカウンターに座った。
「この前電話で言われました」
「そっか。まぁ、なんにしてもよかった」
コーヒーを一口。
ほんのりと苦い、それでいて口の中に広がる香りは香ばしい。
身体の中に温かさがじんわりと広がって、私は自然と笑顔になった。
暫く二人で話をしていると、入り口の扉が開いて沙由が入ってきた。
リエも一緒だ。
「先輩、お待たせしましたー」
「薫さん、お久しぶりです」
「いらっしゃい、二人とも」
誠二さんが微笑み出迎える。
二人ははしゃぎながら私の両隣に腰掛けると、今日のライブについて話し始めた。
そんな二人を眺めつつ、私はぼんやりとしていた。
そろそろ行きましょう、という二人の言葉に頷くと、会計を済ませて誠二さんに手を振った。
「じゃあ、また後でね」
誠二さんの言葉に頷くと、私たちは駅前のライブハウスへと向かった。