プラトニック・オーダー
数人のウエイターが入り口で待機していて、私たちの姿を見ると笑顔で人数を尋ねてきた。
一緒の席で食べようかと話していたので、私たちは迷わず四人で、と答えた。

ウエイターの一人が頷くと、すぐにレストラン内に案内してくれた。
ざっと辺りを見回してみたけど、保坂くんの姿は見つけられなかった。
それもそうだ。
ウエイターの数もそうだが、お客さんの数も相当なものだった。

「もう少し遅かったら座れなかったかもねー」

ユウがのんびりと呟いている。
案内された席に座りながら、私たちは笑った。

「でもなんか、結構高そうなレストランですよねー。奮発してきた甲斐があった」

エミカがはしゃいで言った。
確かに、バイキング形式のレストランではないので料金は高めだ。
案内してくれたウエイターを待たせていたので、私たちは銘々飲み物を頼む事にした。

「かしこまりました」

恭しく頭を垂れ、彼が去っていくと私たちは改めてレストラン内を見回す。
家族連れやカップルが多かったが、一様にその顔は笑顔で、このレストランのサービスが行き届いていることを現しているようだった。

 「お待たせいたしました」

掛けられた声に、私が反射的に顔をあげると、そこには保坂くんが立っていた。
私が何か言うよりも早く、ユウが黄色い声をあげる。

「わあ、お兄さんかっこいいですねー」

「ありがとうございます」

見事な営業スマイルで、保坂くんが微笑む。
ユウが赤面するのを見ながら、私は思わず苦笑いを浮かべた。

 保坂くんは私たちの目の前に薄く輝くシャンパンを並べながら、完璧な動作で微笑んでいる。
そして最後に、とびきりの笑顔で私たちを見回した。

「こちら、当レストランからのサービスとなっております。どうぞ、ごゆっくり」

そう言ってウインクされてしまえば、この三人の少女達はもうすっかり保坂くんのファンになったようだった。
サービスしてくれるのは大変嬉しいのだが、一々女の子を魅了していてどうするのだろうか……。

「今の人本当にかっこよかったねー」

乾杯の後、リエが頬を紅潮させたまま言った。
当然、他の二人も同じ意見のようだ。

「薫さんもそう思いますよね?」

同意を求められ、私は頷く。

「でも、何でサービスなんて?あ、もしかして、薫さんってここのレストランの関係者とか?」

最もなエミカの疑問に、私はどう答えるべきか悩む。
そして、内緒にしても仕方ないか……という結論に達した。

「……さっきの人。私の婚約者なの」


< 27 / 51 >

この作品をシェア

pagetop