プラトニック・オーダー
あの後、ひとしきり三人に励まされ、練習させられつつも楽しい夕食を終え。
夢見の悪さなど忘れて、やっと部屋に戻ってきたのは21時過ぎだった。
バーで飲みなおしませんか?と誘われたけど、いつ保坂くんが戻ってくるかわからなかったので断った。
三人は残念そうにしていたけど、朝食を一緒に食べる約束をして別れた。
「あ、そうだ」
私は思い出して、携帯の画面を見つめ実家の電話番号をプッシュする。
小気味いい呼び出し音が数回続き、聞きなれた母の声が電話の向こうから聞こえた。
「お母さん」
『もしもし?薫?もう、着いたなら連絡しなさいって言ったでしょー』
「ごめんごめん、ちょっとこっちで友達に会って、すっかり忘れちゃってた」
私が言うと、母が安堵なのか呆れてなのかわからない溜息を零した。
「ねえ、ルリ元気?寂しくて泣いてない?」
『ルリちゃんなら、お父さんと遊んでるわよ。こっちに住むようになってからけっこう経つし、大丈夫ね。それよりお父さんが、一緒に行きたかったって騒いでて煩いわー』
「お父さんは心配しすぎなんだよー」
私が笑いながら言うと、母が驚いた様に声をあげた。
『あら、なんだか声が元気になってるわね。よかったわ。二泊三日でしょう?ゆっくりしていらっしゃい。ルリちゃんなら、お父さんに任せておけばいいから』
「うん、ありがとう。あ、でもお父さんにあんまり甘やかして色々あげないでって言っておいてね。最近ルリ太ってきてるから」
母との電話を切り上げると、私はぐいっと背筋を伸ばした。
環境が変わったからなのか、それともリエたちに励まされたからなのか。
なんだか、ここに来る前よりも心が軽くなった気がした。
何より、一つわかったことがある。
私が自信なさげに振舞っている事で、こんな私でも好きだと言ってくれる保坂くんに失礼なことをしているんじゃないかと思った。
私は私でしかないけど、保坂くんは保坂くんなのだ。
保坂くんが好きだと言ってくれる私を、好きになってあげようと思った。
部屋の中を物色していると、部屋のドアがノックされた。
ドアスコープを覗くと、保坂くんが立っていた。
既に着替えてから来たのか、私服だった。
「お疲れ様」
「疲れたー」
のんびりと言う保坂くんは、レストランで見た保坂くんとはまた違って。
いつも見ている彼だけど、なんだか可愛らしく映る。
「すごいお客さんだったね。あ、リエ達がありがとうって」
「ああ、あれ?課長が持っていってあげなっていうからさー」
「なんか、俳優さんみたいだったよ」