プラトニック・オーダー
 私たちがロビーに着くと、ご両親が待っていた。
受けた印象は、優しそう、だった。

保坂くんのお父さんは本当に優しそうで、顔はあまり似ていないんだけど雰囲気や笑った時がとても似ていた。
反対にお母さんは若くて美人で、保坂くんはお母さんに似たんだろうなっていう感じ。

私は緊張してしまって、慌ててお辞儀をした。

「こんにちは」

私が言うと、保坂くんのお父さんは微笑んだ。
笑った時の目尻が似ている。

「こんにちは、お会いできるのを楽しみにしてました」

「木崎薫です……あの、今回は……」

「まぁまぁ、親父もここじゃなんだしラウンジいこうよ」

保坂くんがのんびりと言う。
私たちは言われるまま、ホテルのラウンジに移動した。

チェックインの時間になれば人が多くなるのだろうけど、ラウンジは今は空いていた。
私たちは椅子に腰掛けると、改めて簡単な自己紹介と挨拶をした。

「……でも、素敵そうなお嬢さんでよかったわ。勤ったら、一生結婚しないつもりなのかと心配していたところなのよ」

「いや、さすがにそれは」

保坂くんが苦笑いを浮かべる。

「本当に勤でいいのかね?」

保坂くんのお父さんが心配そうに聞いてくるけど、私はゆっくりと頷いた。

「じゃあ、私たちが反対する理由もないね」

安堵した。
反対されたらどうしようかと思っていたから。

「じゃあ、詳しい顔合わせとかの日取りはまた連絡するよ。わざわざ来てもらってごめんね」

後半は殆ど保坂くんとご両親が話しているのを聞きながら、私はなんだかこれが現実なのか夢なのかわからなくなってしまった。

 ご両親が慌しく帰っていって、私たちはまた二人になった。
気がつけば二時間くらい話していたようで、すっかりお昼時は過ぎていた。

「おなか空いちゃった」

保坂くんが微笑む。
私も今更ながら緊張がとけてきて、小さく空腹を告げる音が鳴った。

「……」

「俺は何も聞いてないよ」

「聞いてるじゃない」

溜息をつく。
保坂くんは笑うと、おいしいところ知ってるよ、と言って再びホテルから出ることにした。
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