プラトニック・オーダー
「そうだ、薫ちゃん!俺さ、来週の土曜日20時から、駅前のライブハウスでライブやるんだよね。良かったら遊びにきてよ」

勇吾さんの声に、私と保坂くんは会話を中断して顔を向けた。
勇吾さんの手には、二枚のチケットが握られていた。

「ソロライブだからあんまり人もいないし、そのチケット入り口で見せてくれれば座って見れるところに案内されるからさ。二人でおいでよ」

「え、でも……保坂くん、来週はいなくて」

「え?そうなの?じゃあお友達とおいでよ」

人懐っこい笑顔でそう言われ、ライブに誘えるような友人がいたかと思考を巡らせる。

「やめろよ勇吾、薫ちゃん困ってるだろ」

誠二さんがやんわりとたしなめてくれている。
私はとりあえずチケットを受け取ると、小さく会釈した。

「えっと、行けるかはわかりませんけど……友達が行くって言えば、行きます」

「薫ちゃん、人ごみ大丈夫?」

保坂くんが心配そうに聞いてくるので、私は小さく頷いた。

「うん、大丈夫。沙由誘ってみる」

「ああ、例の後輩ちゃんか」

保坂くんが安心したように笑顔になった。
沙由を誘ってダメなら、勇吾さんには申し訳ないが行かないでおこう。
あんまり人ごみは得意ではないし。

 暫くそうして他愛のない話をして、私たちはお暇することにした。
時刻はいつの間にか13時をまわっていて、二人でゆっくりウインドウショッピングでもしようということになった。

誠二さんと勇吾さんはにこやかに送り出してくれた。
私たちはカフェを後にすると、日差しが強くなってきた街中をのんびりと歩き出した。

「勇吾さんは、誠二さんと同い年で、俺の先輩なんだよ」

「ああいうタイプの先輩がいるなんて、知らなかったよ」

「あの人はなんていうか、自由人だからなぁ」

保坂くんの言葉に、私は頷いた。
見た目で判断するのも悪いけれど、確かに話した感じそんな雰囲気があった。

「ああ、そういえば。ライブ行くのはいいけど、変な人もいるかもしれないから気をつけるんだよ」

思い出したように優しい言葉を掛けてくれる。
保坂くんは本当に優しい。

「大丈夫だよ、保坂くんじゃあるまいし」

笑顔で答えると、また複雑そうな表情を浮かべる保坂くん。
私、何か変な事言っただろうか。
不安になると、すぐに保坂くんは笑顔になった。

「まぁ、一応ね。薫ちゃん可愛いんだし、ちゃんと注意しないと」

「可愛い……そうかな」

保坂くんに言われると、くすぐったい気持ちになる。

「そうだよ!ほんとに気をつけてね」

力説する保坂くんに笑顔を返すと、私は目に止まった移動販売のワゴンを指差した。

「あ、あれ!この前沙由がおいしいっていってたやつだ」

「メロンパン?」

「そう!焼きたて売ってるんだって」

照れ隠しもあって、思わず少し大きい声で言ってしまう。
これでは、色気より食い気だ。

「じゃあ半分こしよ」

保坂くんは甘いものに目がない。
にこにこしながらワゴンに近寄ると、あっという間に買って戻ってきた。

半分こして食べるメロンパンは、甘くてふわふわしていておいしい。

「本当においしいね」

二人で微笑み合うと、それだけで幸せな気持ちになれる。
私って、本当に単純なんだな。
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