プラトニック・オーダー
土曜日は直ぐにやってきた。
ライブに行く服装……と言われても、私は普通の服しか持っていない。
椅子に座る席と言われていたので、ワンピースにカーディガンというありきたりな服装で行く事にした。
駅前で沙由と沙由の友人と待ち合わせたのが19時半。
時間通りに沙由達が来たので、簡単な自己紹介をした。
リエと名乗った少女は、童顔だが不思議な色気のある子だった。
沙由もいつものスーツ姿ではなく私服のせいか、いつもよりももっと愛らしく見えた。
「先輩!」
嬉しそうにはしゃぐ沙由をなだめつつ、私はリエに軽く会釈をした。
「はじめまして、薫さんですよね。沙由から聞いてます!可愛い!本物!」
「か、可愛い……?ありがとう」
服装の事かと頷く。
確かに、二人の服装と比べたら大人しい可愛らしい格好かもしれない。
二人はなんというか、若さを前面に押し出した派手な服装だった。
「じゃ、さっさといっちゃいましょー」
沙由はそう言うと、ライブハウスに私たちを案内してくれた。
正面の入り口から入るのかと思いきや、沙由がいるからか裏口から入ることが出来た。
まだ入場が始まっていないホールは、がらんとしていて静かだった。
そういえば、バンドの名前すら聞いていなかった……と思っていると、ドリンクが運ばれてきた。
サービスですと言われ、VIP席と言っていた意味がわかった。
「沙由ー」
男性の声に、私たちはそれまでしていたおしゃべりをやめて声の方を向いた。
見れば、グレーアッシュの短髪の青年が笑顔で沙由に手を振っていた。
「わー、しゅうちゃーん」
にこにこと沙由が手を振る。
可愛い。
「あ、どーも。周二です」
「沙由の彼氏だよ」
「はじめまして」
私たちが挨拶をすると、周二は快活な笑顔を浮かべた。
「お、薫ちゃん来てくれたんだね」
声に振り返ると、一週間ぶりに見る勇吾さんが立っていた。
会ったのは二度目なのに、よく名前を覚えていたものだと思う。
「周から聞いたけど、沙由ちゃんと知り合いなんだって?世間は狭いねー」
「そうですね」
「まぁ、ゆっくり楽しんでいってよ。終わったら打ち上げもあるし、時間あるなら寄って行って。沙由ちゃんとリエちゃんも来るんだよね?」
「リエどうするのー?沙由は周ちゃんが出るから出るけど」
「行っていいなら行きたいなー」
「やったー」
「じゃあ、後でね」
そう言うと、勇吾さんと周二は去っていった。
「打ち上げとかあるんだね」
「ですよ!お酒飲んで、ご飯食べて、朝までカラオケ!」
沙由はご機嫌で話す。
私はさすがに朝までは無理だな……なんて考えていると、入場が始まったらしく入り口が開いた。
VIP席は、一般の席よりも一階上にあって、ちょうどホールを見下ろす形になっている。
ぞろぞろと入場してくる人たちからは、二階の席に誰がいるかはよく見えないつくりになっていた。
「ドキドキしてきた」
リエが興奮した様子で呟くのを聞きつつ、私は階下を眺めていた。