メトロノーム

「灰皿ちょーだい」

「はい」


そのときも、あなたはとても不味そうに煙草を吸った。

本当は吸いたくないんじゃないか。そう感じたのを覚えている。


「砂輪ちゃん、可愛いね、モテるでしょ」

「全然ですよ」


薄暗い地下の室内。青色の間接照明。グラスに光が反射して、白くきらめく。

私のことを可愛いと言いながらも、あなたは私を見ていなかった。




…ああ、なんだ。そうか。

この人の言葉は、心を経由しないんだ。心とは別のところから言葉が出発しているんだ。


淋しい人。
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