メトロノーム
「遅いー!」
「うーるさい」
私の笑顔の指摘に、あなたはちっともうるさくなさそうにそう言って、ごめんねの代わりに手を握ってくる。
その手が今日も冷たいままだから、私はあなたの三十分の遅刻を許すことにする。
「今日はどこ行く?」
「とりあえずドライブ。車向こうに停めてあるから」
「やった。ドライブしたい気分だったんだよねー。ま、敦宏(アツヒロ)とならどこでもうれしいけど」
あなたは私のこういうところが嫌いなんだろうな。わかっていても、伝えたいことって、ある。
車はすぐ側の路肩に停められていた。もう手を離しちゃうのか、残念。
あなたは運転席に、私は助手席に、ほぼ同時に乗り込むと、あなたはすぐに車を発進させた。