メトロノーム

* * *


初めから、少し淋しい人だな、とは思っていた。



「何にいたしますか?」

「カクテル。甘くないの適当に作って」


私の働いているバーに、彼が来店したのが出逢いだった。

まだ若いのに、そこそこいいスーツを身に纏っている。袖口から覗く時計も、輝きに重みがある。耳にはピアス、ネクタイはない。


彼がカウンターに座るなり、ついチェックをしてしまった。バーにいると、自然と男性の服装に鋭くなる。

世間的にあんまりいい仕事ではないんだろうな。というのが私の彼の第一印象だ。


「嫌いなお酒はございますか」

「ない。強いのにして」

「かしこまりました」
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