メトロノーム

たしか、ジンをベースにしたカクテルを出したと思う。

彼は一口で半分を飲むと、カウンターに腕をついて、話しかけてきた。


「女のバーテンって珍しいね」

「そうですかね」

「これ、うまいよ」


グラスを指差してそう言われた。


「ありがとうございます」


自分の作ったお酒を誉められればうれしいはずなのに。なぜだか、あんまりうれしくない。

悪口を言われるのとは違う、無視されたような虚無感。からっぽだ。
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