Cross Over
いつものシゲちゃんのバー。
5人で乾杯したあと、今日の演奏のことから、
気づけば仕事の話や、雑談、人生相談まで5人で笑い語り明かしていた。
澪は完全に酔いつぶれて一人テーブルにうつぶせてイビキをかいている。
その隣で、
佐山先輩が酔って一人涙目になり、人生について語っているのを、
沙織がクスクス笑いながら、からかい混じりに聞いている。
その様子を見て、
私と新崎先輩は二人店を出て、
この店の上にあるあの屋上から、たくさんの光が輝く夜景を眺め、手すりに寄りかかっていた。
『・・へえ。そんな話しをもちかけられたのか。』
演奏後に会った男性の話を聞いて、新崎先輩が言葉を続けた。
『確かに、莉菜の演奏と曲は、今日の中でも一人飛び抜けてたからな。』
煙草をくわえ、火をつけた新崎先輩がつぶやく。
『ええ?そんな・・』
困ったようにうつ向くと、煙を吐き出して先輩が答える。
『いや、明らかに群を抜いてた。ピアノのこと詳しく知らない俺でもそう感じたんだから。』
先輩が手すりに肘をつく。
『・・・でも』
視線を下に落とす。
『それって、プロになるってことですよね。』
うつむいたまま、言葉を続ける。
『あたしにそんな力・・・』
考え込むように黙ると、新崎先輩が体の向きをかえ、手すりを背にしもたれかかった。
『莉菜がどの道を選ぼうと、俺はその莉菜を応援するし、いつも味方だ。』
先輩を見上げると、こちらを見て微笑んでいた。
『莉菜がどうなろうと、俺はずっと傍にいるし。いつも守ってやる。』
先輩の手が頭を優しく撫でる。
『先輩・・・』
『ゆっくり、考えたらいい。』
先輩の、全てを包み込むような空気と、そして表情に、
一人抱えていた想いが晴れていき、前を向けるような気がした。
『真剣に、考えてみます。』
先輩を見上げて言うと、
ゆっくり微笑んで、先輩がうなずいた。