Cross Over
嫉妬
一ヶ月後。
んー・・・っ疲れたぁー。
デスクでぐっと手を伸ばす。
まだ2時か・・・。
ふと腕時計に目をやって、ため息をつく。
目の前の山積みの資料を見つめ、肩を落とす。
今日も絶対残業だ・・・。
深くため息をついていると、ふと肩を叩かれた。
『黒川さん』
振り向くと、にこっと笑みを浮かべた男性が立っていた。
『あ、倉沢さん』
びっくりしたー、と胸を撫で下ろすと、ごめんごめん、と優しい笑みを向ける。
営業部の倉沢利明。
企画部の二人ほどではないが、この倉沢さんも女子社員から人気のある社員の一人だ。
サラサラとした黒い髪。優しくて上品さのある雰囲気と顔立ち。
歳は27くらいだろうか。
いつもにこにことした、その癒し漂う人柄から、女子社員からは『王子様』と陰で呼ばれている。
『今日は社内でお仕事ですか?』
倉沢さんの方に体を向け問う。
『今、一つ取引先に顔出して来たとこなんだ。ごめん、この会社なんだけど、ここの営業部長に繋がれるかな?』
持っていた書類を指差し、倉沢さんがのぞきこむようにデスクに片手をつく。
『大丈夫ですよ。連絡先、今メモしますね。』
笑顔で答えると、
ありがとう、と笑顔が返ってきた。
管理課と営業課は何かと仕事上の繋がりが多い。
倉沢さんは週に1度あるかないか、よく管理課を訪れている。
よく話すうちに、倉沢さんのそのおっとりとした優しい雰囲気に、
さん付けで呼ぶようになっていた。
『そういえば最近。』
不意に倉沢さんが言葉を向ける。
『黒川さんって、企画部の新崎さんとよく一緒にいない?』
ドキっと、胸が詰まりそうになる。
『えっ・・?』
恐る恐る倉沢さんの顔を見上げる。
『いや、気のせいかもしれないんだけどさ。』
倉沢さんが頭の後ろに手をあてて、少し困ったように笑う。
『なんか、最近、仲良いんだなーと思って。』
鼓動が速くなる。
『そっ・・そうですか?ちょっと、最近よく話すだけですよっ。』
何事もないように装い、微笑んで倉沢さんを見上げる。
そっか、と倉沢さんが微笑む。
『今度時間あったらさ。どっか飯でも行こうよ。』
倉沢さんがメモを受け取りながら、こちらを見た。
・・・・
『・・・じゃあ、そのうち残業とかなければ。』
作り笑いで、その場を取り繕う。
『そうだな。ありがとう。』
じゃあまた、とメモを持った手をあげて、
癒されるようなおっとりとした笑みを向け、倉沢さんがオフィスを出ていった。
・・・・
はぁ~~~・・・・っ
倉沢さんが出ていったのを確認したあと、
大きなため息と共に、デスクに突っ伏した。
危ない・・・バレるとこだった・・・。
体勢を立て直し、
ケータイを手にとる。
このままじゃいけないかも・・。
時計を見て、ケータイを開いた。