Cross Over
『無理。』
企画部のオフィス近くにある小さなロビーで、
煙草をふかし、新崎先輩が無表情で即答する。
・・・・・
『会社内で莉菜と会わないとか。そんな約束はできない。』
煙草を吸いながら、先輩が言い放つ。
少し顔を赤らめて先輩を見上げる。
『そりゃあっ・・そりゃああたしも・・。先輩と会社でもご飯食べたり、こーやって休憩中会ってたまに話したり、したいですけど・・・。』
うつむき、口ごもる。
じゃあそれでいい、と先輩が体の向きを変えて、煙草の火を消す。
『・・でも・・・。』
先輩を見つめたあと、うつむき言葉を続ける。
『ほんとは社内恋愛禁止ですし・・先輩に迷惑かけてしまったら・・。』
私の言葉に、何も言わず、2本目の煙草にゆっくりと火をつけながら、先輩が答える。
『別にバレたって構わねえよ。』
・・・・え?
目を丸くして先輩を見上げる。
『そんな風に莉菜とコソコソ付き合ったりすんの、嫌なんだよ。』
缶コーヒーを片手に煙草の煙をふかす。
・・・・////
『・・それに』
赤らめてうつむいた顔をあげると、
新崎先輩が軽く唇を重ねた。
・・・・っ!?////
『ちょっ・・・!なっ・・・なにしてるんですかっ・・!?///だっ・・誰かに見られたらっ・・///』
口をパクパクさせて先輩を見上げる。
からかうように声をあげて先輩が笑う。
『今でさえ、触れるのこれだけ我慢してんのに。会わないとか無理。』
・・・・・////
優しい笑みで先輩が頭を撫でる。
『お前はなんにも心配すんな。』
な、と目を見つめる先輩の優しい目に、
心が落ち着く。
何心配してたんだろ。
先輩がいてくれたら、なにも怖がることないのに。
『・・・はい///』
先輩を見上げてうなずいた。
『誰に言われた?』
『え・・・?』
そのままの落ち着いた様子で煙草に視線を落とし、煙をふかしながら先輩が問う。
『誰かに、俺と一緒にいること勘ぐられたから、そんなこと言い出したんだろ?』
『・・・・』
全てお見通しなんだな・・。先輩には。
少し息をついて、先輩に答える。
『倉沢さんです。』
『倉沢・・・?』
先輩がこちらを見る。
『はい・・営業課の・・』
先輩が視線をそらし、ゆっくり煙を吐き出す。
・・・・?
表情を変えず何も言わない先輩を見つめる。
『・・・先輩。倉沢さんのこと、知ってるんですか?』
恐る恐る聞くと、
ああ。と少し間をおいて答えた。
『関わったことはねえけど。名前と顔はな。』
そうですか、と視線を落とす。
『なんか、言い寄られたりしてねえだろうな。』
『え・・・っ』
煙で目を細め、先輩がこちらを見ずに缶コーヒーを飲む。
『大丈夫ですっ・・!そんなの言われてももちろん断りますしっ・・!』
先輩がちらっとこちらを見る。
・・・・。
やばい。なんかバレてる。
『・・・・』
『・・・・』
しばらくの間のあと、
ふう、と軽く息をついて、先輩が呆れたように微笑む。
『俺以外の男についてったら、さっきのじゃ済まねえからな。』
ふと、先輩が顔を近付けつぶやいた。
『・・・・っ////』
赤らめた顔で先輩を見上げた途端。
さっきより深く口付けられる。
『・・・・・っん・・』
息がもれる。
先輩のシャツをぎゅっと掴む。
先輩の大きな腕が、ぐっと背中を抱き寄せる。
先輩っ・・・・
最近になり、先輩の腕に抱きしめられたり、深く口付けられると、
離れたくなくなる自分がいる。
落ち着いた先輩の動き、
そのやり方に、
優しさと伝わってくる想いを感じて、
身をほだされ、
まだしてほしいと、
恥ずかしくて言えはしないが、
心の中で想ってしまう。
ゆっくり唇を離される。
『・・・・もう離したくなくなるから、これで終わり。』
意地悪そうに先輩が笑う。
・・・・っ/////
まだしてほしいって思ってることも
バレてるのかも・・・
『・・・先輩以外の人を好きにになることもないし。絶対ついていかないです。』
・・・・////
顔を赤らめて伝える。
ふっと優しい笑みを浮かべ
先輩が微笑む。
そうか、と頭を撫でた。
『そろそろ戻りますね。』
時計を見て、言葉を発する。
『ああ。』
先輩が煙草の火を消す。
『あんまり残業無理すんなよ。』
『はいっ。』
またな、と手をあげる先輩に手を振り、
笑顔でロビーをあとにした。
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莉菜の背中が見えなくなったあと、
新しい煙草に火をつけて、目を細めた。
『・・・倉沢か』
眉をしかめたあと、
残りの缶コーヒーを静かに飲み干した。