Cross Over
『なーんか・・どっかで会ったことある気がするんだよなー・・』
休日の昼下がり。
新崎先輩と、マンションの近くの土手沿いを散歩する。
『なに?そのおっさん?』
左手を繋いで片方の手はポケットに入れた先輩が、歩きながらこちらを見る。
『うんー・・・』
右手を繋ぎ、ゆっくりブラブラと歩きながら顎に手をあてて考え込む。
コンクールで会う以前にも、どっかで会ったことあるような気が・・・
『なんかお偉いさんなんだろ?表彰式やらリサイタルやらで今までも見てんじゃねえの?』
先輩があくびをしながら言葉を発した。
『うんー・・』
きっとまた会えるーーー
微笑みと共に発せられたあの言葉も気になるが。
でも・・・
有名な方だし、雑誌なり会場で見たのをそう思ってるのかも。
・・・あたしの思い違いなのか
『そうかもしれないですね』
微笑んで隣の先輩を見上げた。
『それよりお前。』
新崎先輩が不意に歩きながらこちらを見る。
『倉沢とえらい仲良しなんだってな。』
・・・・っ!!
『だっ・・!だだ・っ・・誰がそんなことをっ!!』
驚いて隣を見上げる。
先輩が、意地悪そうに片方の口角をあげる。
『この間、高本と会社ですれ違ったとき聞いた。ここ最近、頻繁に倉沢が莉菜のデスクに来てて怪しい。莉菜捕られちゃうかもよー・・ってな。』
先輩が、そのままの何か言いたそうな笑みを浮かべて、こちらを見る。
っ・・・・!!
澪・・・また余計なことを・・
いひひっ♪と笑う澪が頭をよぎる。
『俺以外のやつに二股かけようなんて、いい度胸じゃねえか』
ニヤリと先輩がこちらを見下げる。
『ちっ・・・!ちがっ・・!!///そそ・・っ・・そんなことするわけないじゃないですか・・・っ!!///』
先輩が吹き出したように笑う。
『挙動不審だし、どもりすぎ。』
腹を抱えて先輩が笑う。
『・・・・!!///』
顔を赤くして頬を膨らます。
『もおーーーっ!!//からかわないでくださいーーっ///』
あー悪かった悪かった、冗談だよ、と
先輩が苦しそうに笑いを抑える。
『・・・・・っ!////』
あーあ笑った笑った、と落ち着きを取り戻した先輩がこちらを見る。
『お前は無自覚だから怖えーよ。』
先輩がぽんと頭を優しく叩く。
『お前が思ってるより、お前は可愛いからな。』
・・・・っ////
落ち着いた余裕のある笑みで見つめられ、顔が一気に熱くなる。
『せっ・・・!///先輩だって、女の子からいっぱいお菓子とかプレゼントとか今でももらってるじゃないですかっ・・!///』
いっつもからかわれて、たまには反抗してみようと試みる。
一瞬きょとんとした先輩が、
ほう、と意地悪そうな笑みに変わり、こちらを見る。
『よく知ってんな。いつも俺のこと見てんの?』
顎を持ち上げられ顔を上に向かせられる。
・・・っ!////
先輩の顔が近付く。
・・・・っ
『そりゃ俺は、嫌がってもモテるから仕方ないな。』
コツンと額同士を軽くつけられる。
『・・・・っっ////』
キスされるかと待った自分に一気に恥ずかしくなる。
そして、先輩の意地悪な言葉に、またからかわれたことの愛しい腹立ちが込み上げる。
『もおーーーっ!!///』
先輩をバシッと叩こうと手をあげて走る。
あはは、と声をあげて笑いながら、先輩が叩かれないように軽く逃げる。
・・・・先輩っ
付き合いだしてから、すごくよく笑うようになった気がする。
屈託のない笑みで、少年のように笑う先輩を見つめる。
きゅんと、胸が苦しくなった。
『あ』
先輩がふと前を見ると、
前から歩いてきた小さい犬が可愛らしく先輩を見上げて尻尾を振った。
しゃがんで、無造作に頭を撫でる。
『可愛いじゃねえか犬っころ。』
『先輩。可愛いがってるのかわからないですよその言い方。』
あはは、と笑いながら、嬉しそうに尻尾を振る仔犬をくしゃっとした笑顔で撫でる。
先輩・・・
本当は・・こんなにも温かくて、明るくて・・。
先輩の笑顔を見つめる。
この人の幸せを守りたい。
ぎゅっと胸がしめつけられる想いを感じて、
楽しそうな先輩を見つめていた。