Cross Over
佐山と屋上を後にする。
『あ~今日はもうなんかやる気しねえなあ~。』
大きく伸びをしながら、佐山が気だるそうに言う。
『一つ企画が終わると気が抜けるからな。』
ポケットに手を入れ、階段を降りる。
『あ!新崎先輩っ!』
きゃっきゃっと女の声が聞こえる。
顔をあげると、三人の若い女性社員がこちらを見ていた。
そのうち一人が、こちらに向かって駆け寄ってくる。
『あのっ・・これアドレスなので、よかったらメールしてくださいっ。』
小さな女の子が、こちらに向かって手紙を差し出す。
・・・
『ああ。』
もうこのやりとりには、もうなんとも思わない。人間、馴れとは怖いものだ。
淡々と手紙を受けとる。
その子が意を決したようにこちらを見た。
『あのっ・・』
少し顔を赤らめて、でも真剣な表情でこちらを見上げる。
『・・新崎先輩は、彼女いるんですかっ・・?』
手紙を受け取った反対の手はポケットに入れたまま、表情を変えずに淡々と告げる。
『ああ。いるけど。』
その言葉と同時に、一瞬その子の顔が曇った。
『・・そうですか。そうだと思ってたので。でももし、よかったら手紙だけでもいいので、読んでください。』
その子がうつむきがちに、でもしっかりとした表情でこちらを見て伝えた。
『ああ。わかった。』
返事をすると、ペコリとお辞儀をして、向こうで様子を見ていた二人の元に走って行った。
『ちなみに俺フリーだから~っ!♪ヨロシク~♪』
後ろから佐山が声をあげる。
見ていた二人から、きゃー♪と声があがり、きゃっきゃっと騒ぎながら、向こうに歩いて行った。
『いやぁ~相変わらずモテモテですな~♪』
ニコニコと笑いながら、佐山が隣を歩く。
シカトしていると、佐山が普通の口調で言う。
『・・でも。なかなか今の子、他の子たちより真剣な雰囲気じゃなかったか?結構可愛かったし。』
手紙にふと目を落とす。
『そうだな。』
そうつぶやいて、手紙を佐山に渡す。
『じゃあお前にやるよ。この子。』
手紙を渡され、は?と、口を開けてぽかんとこちらを見る佐山をそのままに、
屋上からの通路の途中にある自動販売機に小銭を入れた。
『・・・うわぁーっ!!!酷ーーっ!!冷酷!冷血!鬼!』
佐山が後ろから叫び出す。
『うるせえな仕方ねえだろ。』
缶コーヒーを一つ取り佐山に投げる。
・・・はあ、と佐山が首を横に振りため息をつく。
『・・・まあ、前からお前はあんまり女に興味なさそうだったけどさ。』
いつも通り佐山が何事もなく缶コーヒーを受けとり、蓋を開ける。
『莉菜ちゃんと付き合ってからは更にその冷酷さが増したな。他の女に対して。』
佐山の言葉を耳で聞きながら、自分の缶コーヒーを買う。
『莉菜以外の女に興味はない。』
~♪後ろからヒュー♪と口笛が聞こえる。
『一途でいいことですな。』
佐山が壁に背をもたれ、缶コーヒーを飲む。
自分の缶コーヒーを取りながら、佐山に言葉を発する。
『お前の一途さも、なかなか目を張るけどな。』
ーーーー!
俺の言葉に佐山が、一瞬固まり目を見開く。
『・・・・』
ふっと、笑い佐山と反対の壁に寄りかかりコーヒーを飲む。
『好きなんだろ?沙織のこと。』
『・・・・!』
微動だにせず、固まったまま俺を見る。
・・・・・
しばらく沈黙が続いたが、
そのあと。
ふと諦めたように息をついて、やれやれというように首を横にふり、笑った。
『・・なんだよ。いつ気付いたんだよ。』
佐山がいつになく、罰が悪そうに目を背ける。
『お前が俺のことをわかるように、俺だって気付く。お前の考えてることくらい。』
はあ、とため息をついた佐山は、
参ったなー・・、と鼻を指ですするように照れ隠しのような仕草をした。
ふっと、笑いながら缶コーヒーを飲んだ。
『沙織は世間知らずだし、自分のことしか考えてねえ。わがままで、お嬢様育ちだし。』
缶コーヒー見つめながら言う。
『・・だけど、あいつはまっすぐでほんとはいいやつだ。ただ、自分に正直すぎて人にぶつかって、まわりが見えなくなるだけで。』
佐山を見ると、いつにない真剣な目で足元を見るように視線を落としていた。
『お前なら安心だよ。』
言葉に佐山がふと、視線をあげる。
缶コーヒーを一口飲む。
『お前が沙織を守るなら。』
『新崎・・・』
『お前なら沙織を守っていける。むしろ、お前にしかできねえかもな。あんなお嬢様なわがまま娘。』
ふっと笑って、佐山を見た。
ーーーーー。
しばらく眉をしかめてた佐山が、俺が笑ったのを見て、ふっと力が抜けたように、笑った。
いつもの屈託のない笑みに戻った佐山が、両手を上にあげて叫んだ。
『従兄のにーちゃんからお墨付きもらえりゃあー、もう敵なしだぜーーっ!♪』
『あいつ、だいぶ俺に惚れてたし、まずそこから頑張れよ。』
・・・・
手を上げたままこちらを見て、
思い出したように唖然と口を開ける佐山に、笑いが込み上げる。
壁から背を離して歩き出す。
『おいどうしてっ・・。なあ、上げといてどうして落とすんだよ・・。どうして・・っ。』
泣きそうな表情で、後ろから落胆し肩に手を乗せてくる佐山に、
声をあげて笑う。
『新崎みたいな冷血鬼男に惚れてたことを後悔させてやるーー!!』
『お前みたいな馬鹿に好かれて沙織も大変だな。』
『ん!?なんだー!?今なんつった!?』
二人でいつものやりとりに笑い合う。
通路の奥、いつものように騒がしく掛け合いながら、階段を降りた。
ーーーー。