Cross Over
ーーー。
ちょっと一服してくるか。
会議が一段落し、会議室から出て、ロビーへ向かう。
一息つき、歩きながら煙草を取り出そうと胸ポケットに手を入れ、ふと前を見る。
壁に隠れるようにロビーを覗き込んでいる後ろ姿が目に入った。
あれは・・・
『高本。何して・・・』
『しーーーーっ!!』
ロビーを覗く高本に、後ろから声をかけた途端、人差し指を口の前にあてて振り向かれる。
『・・?』
不思議そうな顔で高本を見ると、何も言わずロビーを指差した。
・・・・
指差されたロビーを、しゃがんでいる高本の後ろから見る。
『わぁーっ♪すっごい綺麗ーー♪』
『あはは、そうかな?』
『倉沢さん、こんな綺麗な熱帯魚たくさん飼ってるんですねーっ♪』
小さなテーブルの横に立ち、飲み物を飲みながら、
少し照れたように笑う倉沢のケータイを覗く、莉菜の姿があった。
『黒川さんは、こういう生き物とか動物とか、見るの好き?』
倉沢の優しい問いかけに、好きですー!、と子供のような笑顔で微笑んでいる。
・・・
その様子を黙って見つめていると、高本がこちらを振り返り小さな声で言う。
『資料運ぶの手伝いに行こうと思って、来てみたらあの状態です。』
二人を指差す。
『倉沢が誘ったのか?』
俺の問いにうなずく。
『莉菜から言うはずはないと思いますよ。きっと倉沢さんが近付いたんです。』
高本の言葉を聞き、少し苛立ちが募り、二人の元へ向かおうと足を踏み出す。
『ちょいちょいちょいっ・・!!』
ロビーに入ろうとする俺の腕を慌てた高本が小声で引きとめ、引っ張る。
『なんだよ。』
振り返ると、高本が目を輝かせて言った。
『莉菜がどんな風に倉沢さんを振るのか、見たいじゃないですかっ!』
『・・・・』
『こりゃ、いいところだな。』
呆れながら高本を見ているとふと声がした。
ロビーを覗く高本の頭一つ上に、佐山の顔が覗いた。
『・・・お前まで来たのかよ。』
ロビーを覗く二つの頭を見て、
軽くため息をついた。